この眼科とは『戸塚駅前鈴木眼科』のこと。


12月31日、前の日までなんの前触れもなく、倒産のお知らせを玄関に貼ったまま、中の人だけが消えた。


そして、総院長は翌日1月1日に『急逝した』と破産管財人が債権者に伝えたとのこと。もうそれって『アレ』しかないじゃん。


しかも悪徳医療系経営コンサルに騙されたという。もう医師のプライドなどズタボロだったであろう。


これを見て思い出すのは昔のこと。その昔、医師の友達が大学病院の勤務医を辞めて開業すると喜び勇んで報告してきた。


元々医局に馴染む人ではなくアウトロータイプだったので、開業して自分の城を作りたかったのだろうと思う。


開業するときに同じ病棟で働いていたナースと結婚した。それまで大きな挫折をすることなく順風満帆な人生だった。


医師としての専門知識はパーフェクトでも、経営のことは何一つ分からない。円安円高すら分からない、そんな人。


クリニックがオープンして開業祝いに行った。建物が通りから奥まったところに位置していたことが気になった。何故?と聞くと、区画整理で近く目の前が大通りになるとのこと。この場所はコンサルが持ってきた破格の場所だったと。


大通りが出来そうな様子はないが、きっと工事が始まれば早いのだろう、そう思っていた。


それから2年弱の月日が経ったとき、彼から連絡があった。区画整理の予定が延期となり、いつ再開か未定と。開業時、設備を整えるために借りた多額の借金が仇で自転車操業となり、今は診療時間後に外の病院で毎日寝当直をやってると。


ちょっと驚いたが、やっぱりなという感想だった。何故なら当時も悪徳医療系コンサルが、経営に疎い医師を騙しては相当儲けている話はよく聞いていたから。


その後、借金返済に行き詰まった彼はクリニックを廃業した。結局最後まで区画整理はされないままだった。そして多額の借金返済のために勤務医に戻ったと聞いた。


それと同時に彼は離婚した。妻に多額の慰謝料を払ったとのこと。きっとボロボロだろうなと思ったが、変に気を遣うとプライドを傷付けると考えたので、私から連絡することはしなかった。


それから暫くして、彼の元上司から連絡があった。彼がSuicide(BAN対策のため英語)したと。


連絡を受けて直ぐに通夜へ出向いた。そこで聞いたのは、廃業して勤務医に戻ってからメンタルを病み、三度ほど手を替え品を替え未遂を繰り返していたそうだ。


最後はGasで本望を遂げたと。棺に眠る彼の顔は穏やかだった。やっと苦しみから開放されたような気がした。元妻は結局葬儀にも現れなかった。


暫く連絡しなかったことを悔いたが、会ったとて自分に何ができただろうと考える。苦しみを取り除いてあげることも出来なかったし、金を貸しても、きっと彼は楽にならなかっただろう。


自尊心が大きく欠損した人の心の闇は深い。傷ついたプライドやアイデンテティを回復させるのはあくまで自分自身であり、その気持ちになるために必要なものは、人それぞれ違う。


彼は医師という大きな自尊心を削られてしまい、自分を取り戻せずに結局逝ってしまった。きっと鈴木眼科の総院長も同じだったのかもしれない。