こんばんは^ ^
久々に、小説を書いてみました。
命日はすぎてしまいましたが、俊太郎さまのお話です(*^^*)
今回は、森山直太朗さんの「夏の終わり」という曲をモデルに書かせて頂きました。
「夏の終わり」
ゆらゆらと、陽炎に揺れる京都を、私は今年も歩いています。
一歩ずつ歩く度に、白い帽子のつばが、青いスカートが、風に吹かれてひらひらと舞うのです。
夏の終わりに吹く風は、私の心をも揺らして、通り過ぎていきました。
貴方の影を思い出させて、貴方に想いを馳せさせて。
…私にーー。
貴方を忘れさせることを、許さないのです。
……………………………………………
2014年、夏。
私は、26歳になりました。
陽炎が揺れる京都で、毘沙門天への道のりを歩いています。
息苦しいほどの熱風は、あの夏の日を思い出させるかのようで。
白い帽子を飛ばされないようにしながら、バス停へと歩くのです。
バス停で待っていると私の目から何故か、涙が溢れました。
悲しいからではありません。
寂しいからでもありません。
彼を置いてきてしまったことを、悔やんでいるからでもありません。
会いたいと願えば、彼が生き返るなどと思えるはずがないのです。
一年に一度の逢瀬。
今日だけは、彼に会いたいと、素直に願える。
そんなことが、たまらなく嬉しいのです。
乗り込んだバスから見える景色は、私を彼との思い出の中へ連れて行きました。
いつか。
水芭蕉が揺れる畦道を、二人で歩いたときのことです。
思いがけない夢を、彼は語りました。
「全てのことが終わったら、あんさんと自由に暮らしたい」
「それだけで…いいんですか…?」
私の頬を撫でながら、彼は穏やかに囁くのです。
「それが、ええんや」
「わてにとっては、それが一番幸せなことや」
その夢を語る彼は、今までで一番、穏やかな表情をしていたのかもしれません。
「…あんさんの夢は?」
私の夢は、どんなことだったでしょうか。
そんなことを考えているうちに、バスは到着し、毘沙門天の近くまで来ていました。
いつか俊太郎さまと歩いた道を、私は今、一人で歩いています。
広い背中に揺れながら、初めて本当の貴方を見た日を思い出していました。
「あっ…!…」
その瞬間、強い風に煽られた帽子を押さえると、足をとられて私はバランスを崩してしまいました。
しゃがみ込み目を閉じると、私の中にはある期待が生まれるのです。
目を開けたら、またあの日のように、貴方が手を差しのべてくれるのではないかと。
分かっているのです。
もう一度目を開けても、貴方はここにいない。
それでも、心が勝手に期待して、求めてしまうのです。
「…もう、行かなきゃね」
そう思い立ち上がった瞬間、私の帽子は風にさらわれていきました。
「待って…!」
まるで誘うように、毘沙門天の方へと帽子は飛んでいきます。
走り出すとそこには、ある人影がありました。
ふいに、あの日と同じ風が、通りすぎたような気がしたのです。
懐かしい香りが、私を包みこみました。
一歩ずつ、その人影に近づく度に、私の胸はトクントクンと音をたてます。
その人影は、私の方へ帽子を手に、やって来ました。
その影が色濃くなるたび、私の目から、涙が溢れだすのです。
悲しいからではありません。
寂しいからでもありません。
彼を置いてきてしまったことを悔やんでいるからでもありません。
ただ、彼に会いたいと願ったからです。
俯く私に、帽子を被せながら、その人は言いました。
「かいらしいお嬢さん、どうか顔を上げておくれやす」
「あんさんにはきっと、涙より笑顔が似合う」
涙が滲んだまま、私はその人を見上げました。
穏やかで優しい眼差しに、慈しむような指先に、私はまた、涙を流しました。
貴方と出会った、夏の終わり。
貴方を失った、夏の終わり。
夏の終わりには、ただ、貴方に会いたくなるのです。
いつかと同じあの風が、貴方の香りを連れてきて、私を包み込むから。
いつか語り合いったあの夢は、今ならば叶うのでしょうか。
今ならば、真っ直ぐに伝えることができるのでしょうか。
私の夢、私が願ったことは、どんなことだったでしょう。
「…会いたかったです…本当に…」
「俊太郎さま」
優しく、ゆっくりと、彼は私の頬を包み込み。
夏の日差しに照らされながら、私たちは静かに、影を重ねました。
『…あんさんの夢は?』
『私の夢は、生まれ変わってもまた、俊太郎さまに出会うことです』
end