この曲のは最初のキーはAメジャーです。
イントロは|A|Bm7|E|。
【Aメロ】
Aメロは
|A|F#7|Bm7|Dm E|A|F#7|Bm7|E A|
となっています。
IからいきなりVIメジャーのセブンスへ。この、VIのメジャーコードというのは、構成音が、キーの主音から見ると「VI・#I・III」となります。つまり調性の核たる音を半音押し上げた形。これが、なんとも切ない響きを奏でます。
(ちなみに、個人的に「泣きのコード」と思っているコードがありまして、それはキーをCとしていうところの、「E(E7)」「A(A7)」「Fm」の3種類なんです。つまり、III、VI、IVm というコード。いずれも、スケール(音階)から半音ずれた音を含んでいます。そのへんが「泣き」の原因かな、と勝手に思ったりしています。)
……で、そのF#7はすぐにBm7へ。Imというお決まりの進行です。しかしそこからDmへ。 岩沢氏お得意のサブドミナントマイナーです。
【Bメロ】
そしてBメロは、
|F#7|Bm7|D|E|F#7|Bm7 Dm|A Bm7|E A|
となります。
Aメロからつづく、「A→F#7→Bm7→E→A……」というサイクルが、ここでも基本です。
そしてBメロとサビをつなぐ部分。
|D AonC# Bm7 A|G|Dm|
代理コードを考慮すると(Bm7はDの代理)、サブドミナント→トニックの流れが最初の一小節に2回出てきます(D→A)。
ベースはレ→ド#→シ→ラと、長音階をひとつづつ下がります。そしてそのままソ(コードはG)まで下がってしまいます。さらにDm(サブドミナントマイナー)へ。これはVIb(この曲で言えばF)の代理コードです。
GはVIIbです。つまり、「IV→III→II→I→VIIb→VIb」という、下へ向かう音の列が出来上がります。
「灰皿の上から」では、VIb→VIIb→I というロック的な進行が出てきましたが、この曲では、この進行を逆にしたものと言えます。
【サビ】
そしてサビへ。そのサビへのつなげかたがおもしろい。
サビは、
|F# C#|D#m|B|C#7|A#m|D#m|B|C#7|B|Bm|F#|Bm F#|
です。
F#メジャーに転調しています。F#のキーから見ると、サビ直前のDmはVIbmです。VIbm とは奇妙なコードです。これには、キーの主音(ファ#)からみてVIIの音、つまりこの場合はファの音が含まれます。
VIIの音は「導音」と呼ばれ、主音と短二度の関係にあり、主音に向かおうとするはたらきがあるということになってます(ちなみにVの音は「属音」、IVの音は「下属音」と呼ばれます)。ドミナント→トニックという進行(強進行)には、この「VII→I」という音の流れが含まれていることがわかるでしょう。強進行の「不安定から安定へ」を成り立たせる要素のひとつがこれでしょう (ドミナントがセブンスの場合は増四度音程からの解放というのも大きい)。
それで、このVIIの音が含まれるVIbm からIへの進行というのは、一種の「ドミナント→トニック」とみることもできるかもしれません。
つまり、Dmというコードが、AメジャーとF#メジャーの2つのキーの橋渡しになっているのです。
そしてこの曲もサビはけっこうよくあるパターンですが、最後はB→C#7と、サブドミナント・ドミナントと来るのでそのままトニックに行って全終止かと思いきや、B→Bm→F#と、サブドミナントとそのマイナーをはさんで終わります。
ただ、このBm→F#の部分。2回目のサビでのこの部分で、メロディは「ファ→ファ#」と歌っているのです(♪ゆく~、のところ)。つまり「VII→I」、「導音→主音」です。もちろん、Bm=サブドミナントマイナーにはこの導音はありません(Bmからすればファは増四度ですので、なかなか鳴らない音です)。
メロディが「導音→主音」と来て終わる、というのはよくあるパターンで、すんなり自然に聞こえるメロディです。が、それは普通「ドミナント→トニック」の進行の上で歌われるのです。それが、岩沢氏は「サブドミナントマイナー→トニック」の上で歌っているのです。なかなかこう歌えるものではないだろうと思います。
そしてイントロと同じ進行の間奏をはさんでAメロです。ここは、F#→Aとなり、いきなりもとのキーへの転調となっています。
以上がこの曲のコード進行と転調のしかたでした。
