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             プシュー・・・ バタン。




 改札を駆け抜けた僕の目の前で、無常にも扉は閉まってしまった。
 電車は、隣の神田駅へ向けて走り去っていく。
 東京メトロ銀座線、末広町駅。深夜の12時を少し過ぎていた。 

 「ふぅ・・・。」

 僕は少々飲みすぎた頭を振りながら、ベンチへ向けてホームを歩いた。
 次の終電まで、まだ10分程ある。
 改札から20m程右に歩いた先にあるベンチに座ると、文庫本を開いた。
 今の雰囲気にはちょうど良い、最近お気に入りの、ライトなホラー。
 2-3行読んだところで、本の世界に引き込まれていった。

 バタッ・・・ガッシャン!!

 自動改札の音が、僕を現実に引き戻した。
 反射的に時計を見ると、5分ほどが経過していた。他の客がホームに入ってきたらしい。
 何の気なしに、左方、改札のほうに目を向けた。
?H1>∑( ̄□ ̄;

 直後、本に目を戻した僕の鼓動は、激しく高鳴っていた。
 い・今、目に映ったモノって・・・。も・もしかして・・・。
 メイドさんのようでいて、微妙に違う。黒と、レースで包まれたその肢体。
 黒光りする革靴に、おかしな・・・帽子!?

    ゴ・ゴスロリ・・・!?

 う・うわさには聞いていた。でも見た事は無かった。一瞬だけだけど、確かにあれはゴスロリだ。
 ただ前に腕を突き出して、変な動きをしていた。まるで納豆の糸を引くような・・・??
 僕はもう一度、そっと視線を送ってみる。

∑∑( ̄□ ̄;


 こ・こっちに向かって歩いてくる!!!

 再確認した視覚情報、かなりキツかった。
 小太り、日本人顔、どスッピン。そしてナゼか、銀縁眼鏡。
 そして、あの奇妙な動作。腕を突き出し、右手を上げ下げ・・・。
 あれは・・・そうかまるで麺類を冷やすような・・・。

 ・・・とぅろぅ・・・ーとぅるるるるおおお・・・

 な・なんだなんだ!?何の音だ・・・!?
 僕は顔を本に向けたまま、視線だけ彼女に流してみる。

∑∑∑( ̄□ ̄;


 左手に持った、白い四角い箱。右手には箸。箸と箱を結ぶ、焦げ茶色の麺!!!

  ペ・ペヤングだ・・・。

 ゴスロリ少女・・・いや、僕の目は一見して、30に近い程の年齢を見て取っていた。
 そのゴスロリ女が、ペヤングの麺をあげたり下げたりしている。ひ・冷やしているのだ・・・。
 そして、彼女との距離が近づくにつれ、その言葉がはっきりと聞こえてきた。

 ・・・とぅろぅ・・・。-とぅるるるおう・・・。めーーーとぅるるるるおうーーーー。

めーーとぅるるるるるおうーーー。



   ∑( ̄□ ̄ メ・・・ト・・・ロ・・!?


 なんだよ!なんなんだよ!!どうしてゴスロリが深夜にペヤングで巻き舌でメトロ!?


  こ・怖い・・・。これは酔いのせいなんだろうか。
               アルコールが、あるはずの無いものを、見せているのだろうか?


 僕は、手元の文庫本のタイトルを見る。  乙一著・・・「GOTH


   ( TДT)  をいーーーー!!!!


 ・・・とうるっるるっるるをおおおおお。めええええええとぅるるるるるおおおおお・・・・

 あっという間にゴスロリ女は近づいてきた。
 気のせいか巻き舌のメトロも長くなっているような・・・。

・・・とうるっるるるるっるるをおおおおお。めえええええええと・・・。


   ((;゚Д゚) とま・・・った・・・。 左斜前・・・1メートル。
   僕は、背もたれに預けきりだった体重を、ゆっくりと両足に戻していく。

                               逃げなければ・・・。    

ダアアアアン!”

 

 ひいいっ!! 

 声が出てしまったかもしれない。逃げたい。逃げたいのに、全身固まってしまって逃げられない。
 彼女が、一つあけたベンチに座ったのだった。

 めえええとうるっるるるるっるるをおおおおお。めえええええええとるうううううおおお。

 呪文は続く・・・。 怖い・・・あまりに怖すぎる・・・。

 めえええええええええええええええええええええええええとぅっ!

 また・・・呪文が止まった。 僕は、またそっと彼女に視線を送った。   

 
    その、瞬間!!!


 ぞばっ!!!ぞばばばばばばばばっばっ!!!

 食いだした!!!えっらい勢いで、食いだした!!!!

 ぞばばばばば!!!!ぞばあああああああああああああああ!!!!


  。゜(゚´Д`゚)ノなんだお、なんなんんだおおおお!!!!


 ぞばばっばばばば!うぐ!ぞばばば!!!うっぐ・・・



  (((( ;TдT))) こえええええええよおおおおお!!!!



 ぞっばばばばばばば!!!!うえっく・・・


   こええええええ・・・ええ・・ええ??




 ぞば・・・ふええん・・・。



     泣いてる?   の?



 ぷっくりと盛り上がった頬を、涙が流れていた。
       それは思いのほかピュアな光を帯びていて、僕をドキリとさせた。



 
   ぞばーーーーー!!!   ちるるるる・・・ちるっ。





 最後の、一本が・・・吸い込まれた。


  
       すっっ。   彼女は、立ち上がった。
 

 僕は彼女を見つめた。  もう、怖くは無かった。そして彼女はもう、泣いていなかった。
 彼女は僕と目を合わせたまま、フン、と軽く鼻息を漏らす。そして。
  

    つぱあああああん!!


 食べ終わったペヤング容器と箸を、深夜のホームに叩きつけた。
 そしてそのまま、僕に背を向け、歩き出した。


               その、瞬間。

?H1>ンダッタタンー。ンダッタタンーーーー。

     
      終電が、滑り込んできた・・・。 彼女は遠く、ホームの先に立っている。


 僕は彼女の投げ捨てたペヤングの容器と箸を拾い上げると、ゴミ箱に入れた。 

        彼女に何があったのだろうか・・・。
 
 ゴスロリファッションに身を包んだ彼女に、何があったのだろう。分からない。





  僕はまだ少しふらつく頭を振りながら、銀座線最終電車に乗り込んだ。   
            
             箸にうっすら付いていた、ピンクのリップが、妙に印象的だった。