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 別に信じてもらいたいんじゃない。記憶を、文字にしておこうと思っただけ。
 
 でも嘘じゃない。

 ある一夏の間僕は、幽霊と二人で過ごした。小説じゃないから面白い話しじゃないし、オチも無い。

 でも、記録(記憶)しておきたかったので書いてみた。

 始まりは、まだ夏も始まったばかりの頃だった。
 当時僕は学生で、九段下という街に一人住まいをしていた。
 その日もいつものように飲んだくれて、ベッドに入った。

 そして、真夜中。

 当時大好きだった、ハワードジョーンズの「ハイドアンドシーク」がいきなりかかり、
 ぐっすり眠っていた僕は飛び起きた。
 ちなみに邦題を「かくれんぼ」というこの曲は、大変静かな、少し恐ろしくさえ感じる曲だ。

 曲は、当時使っていた赤いミニコンポから流れていた。
 いつのまにか、タイマーセットでもしてしまったんだろうか・・・と、
 カセットテープのストップボタンを押そうして、気が付いた。

 (-"-; )・・・ありえない、のだ。

 タイマーセットで、電源は入る。ラジオに合わせておけば、ラジオは鳴る。
 でも・・・カセットテープは、スタートボタンを押さない限り音が出ないのだ。
 そのボタンが、押されている・・・。どういう事なのだ!?・・・僕は不信に思いながらも、
 テープのストップボタンを押した、

 まさに、その時。

  RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR


 いきなり電話が鳴り出した。深夜2時である。僕は1センチ程飛び上がって、
 電話を睨んだ。誰だよ一体・・・。少し涙目になりながらも、受話器を上げた。

 もしもし・・・

        た・・・たすけて・・・  ツーツーツーツー
          

              (○_○)


 僕は凍りついたまましばらく動けなかった。朝まで眠れなかったのは言うまでも無い。
 搾り出すような、女性の声。いたづらか?このタイミングは、偶然だってのか?

                 
               * * *


 それから、おかしな事が続いた。家具の隅で足の小指をぶつけ、思わず声が出る。

 「いってえ!!!!」の直後、「ふふっ」・・・ 笑 い 声 ?


 部屋で静かに本を読んでたりする。それまで意識してなかったのに、
 ふと気がつくと、自分の呼吸に重なるように、誰かの吐息が聞こえる。

 スーハー・・・スーハー・・・

 ススーーハー・・・スースー・・・ハーハー・・・ 

 息を止める。  スー・・・  ∑( ̄□ ̄; それで、もう一つの呼吸音は消えた。


 ある日、友達が部屋に遊びに来た。二人で酒を飲みながら、ファミコンで遊んでいた。
 僕はトイレに行きたくなり、友達をテレビの前に残してトイレに行った。
 ユニットバスになっているトイレで用を足し、すぐ横に設置されている蛇口で手を洗う。
 顔を上げると正面は鏡。後ろはすぐ扉なので、鏡に扉と曇り硝子が映っている。
 何の気なしに鏡を見ていると、鏡に映った曇り硝子の向こうを、スーっと黒い影が横切る。
 ん?奴が冷蔵庫でもあさりに来たか?食べかけのシーチキンくらいしかないけれど。

 「よう、冷蔵庫あさったんかあ?」

 「あ?何がよ。」

 「いや、今トイレの前通ったろ?」 
 
 「いや、通ってねえよ。ゲームしてたけど。」

 「嘘つけ・・・だって、俺見た・・・」

 ∑( ̄□ ̄ お・おかしい・・・・・
 
 その友達は、身長が175cmくらいあった。
 だけど、影は曇り硝子の下すれすれを通ったのだ。
 それから察すると、身長は130~140!?んなバカな!?友達がしゃがんで?
 なんでそんな事わざわざ・・・!?

 この日に僕は確信した。多分、小学4年生くらいの女の子が、いる
 
 最初の1週間くらいは気持ち悪くてしょうがなかった。

 部屋に置いてあるロードレーサーが突然走ったり、ポテトチップの袋がガサリと鳴ったり。
 水道の蛇口がいきなり開かれて水がジャーッ!と出たり。
 夜中に「きゃあ!」なんて声が聞こえた事もあった。
 
 でもそのうち、慣れた。ww

 何しろ、一人だったから。
 姿の見えないイタズラっ子、というのはよくよく考えてみると、
 中々楽しい同居人だったのだ。何しろ、可愛いイタズラばかりする。
 今度は何が起きるんだろうなんて、ちょっと楽しみにしていたりした。

 幽霊は夜、と相場が決まってるようだが、あれは多分ウソだ。
 彼女は時折昼間でも現れ、楽しいイタズラを見せてくれた。
               
 その頃僕はハンバーガー屋で、夜中に店内メンテナンスをする、アルバイトをしていた。
 そして、一晩中働いて朝方自分の部屋に戻ると、必ずと言っていいほど、彼女は現れた。
 一晩中一人ぼっちで、寂しかったんだろうと思う。

 夏も終わりに差し掛かったある晩、僕はいつものようにバイト先で食器を洗っていた。
 上下制服に、エプロンをしているのだが。


 くいっ・・・  Σ(・_・;) ん?

 後ろから引っ張られるような感覚。
 (°Д°)?後ろを振り向くが、もちろん誰もいない。気のせいかとまた水を使い始めると、

 くいくいっ・・・

 間違い無く、引っ張られた感がある。でもやっぱり、後ろには誰もいない。
 まさか・・・。でもこれまで、バイト先に現れた事は無かったのだが。

 しばらくして気が付いた。エプロンの、後ろで結んでいる紐が解けていた。

 やっぱり。


 それが、最後だった。 それからもう二度と、彼女は現れなかったのだ。

 どうやら、お別れの挨拶に来てくれたらしい。

 お別れの晩、僕がたまたまバイトを入れてしまったから。

 初めて、部屋を出てバイト先まで来てくれたらしい。
 
 もし、あの晩に部屋にいたのなら、一体何が起きたろう、と今でも思う事がある。

 もしかして姿が見れたりしたのかな。バイバイ!、くらい聞けたのかな。


 んでも、あんなさようならで良かったんだなとも思う。

 今でもとっても、胸に残っているから。





     今でも浮かぶ言葉はやっぱり、 「ありがとう」  しかない。




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