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1年以上ぶりの帰省になる。
あの神社の先を曲がれば、あとは実家の前まで真っ直ぐな一本道だ。
すでに懐かしい香りが漂ってきている。
春先のこの季節、沈丁花や焚き火のにおいが混ざった田舎独特の香りが、心を落ち着かせる。
小さい頃学校帰りにあの角を曲がると、飼っていた犬が出迎えに走ってきたものだった。
当時は犬も半分放し飼いのような物だった。それでも文句を言う者も無く、
人にも犬にも良い時代だったのかもしれない。
果たしてその角を曲がったとき、僕は一瞬立ち止まってしまった。
50mほど先、実家の門の前にちょこんと座った姿が、夕日に影を映している。
まさか・・・。当時飼っていた犬はとうの昔に死んでいる。
よくよく目を凝らすと、姉の家で飼っている犬だと分かって、一人苦笑いをした。
勘違いもはなはだしい。桃子という名前のその犬は、母親がマルチーズの雑種だ。
全身白く長い毛に覆われているが、所々薄茶の毛が混じり、
それが白い毛と混ざって桃色に見えるのが名前の由来らしい。
買われて来た時から良く知っている僕は、親族の中でも特に彼女と仲が良い。
さらに歩いて実家に近づくと、家の中から黒髪をセミロングに伸ばした女性が出てきた。
姉貴だった。しばらく見ないうちに髪型を変えたらしい。
「モモー。」小さく呼びかける。
まだかなり離れているが、彼女は私の声に気が付いてこちらを振り向いた。
いつものように、白い毛玉のようになって駆けて来るかと思いきや、
のそりと立ち上がると、すたすたと歩いて近寄ってくる。どうにも元気が無い。
道の途中で桃子と出会うと、しゃがんで頭を撫ででやった。
桃子は嬉しそうに目を細め、僕を見詰めてくる。
「どうした?元気ないな。」
桃子が返事をするわけも無く、キョトンとした大きな目を見開いた。
僕は立ち上がると彼女を従えて実家にたどり着いた。
「よう、久しぶり。」
姉に声をかけると、姉はそっぽを向いたまま、
「ああ・・・帰ってきたの。」
そう言った。自分も久しぶりだろうに、ヘンな事を言うなと思いつつも、僕は言った。
「モモ、元気無いんじゃないの?」
「そう・・・そうれが・・・おなかに何か出来ちゃってるの。」
「おなか?」
姉は相変わらずそっぽを向いたまま、返事もせず頷いた。僕は桃子を呼ぶと、
側に寝転がせた。そしておなかをさすってやろうと伸ばした右手を、思わず引っ込めた。
「な・・・。」
僕は絶句してしまった。桃子のおなか、6つ並んだ乳首の脇のあたりに、
3センチくらいだろうか・・・茶色の、セミの抜け殻みたいな物が付いている。
そしてその真中がホウズキのように弾け、中に白い物体が見えている。
「何・・・・これ・・・。」
「分からないんだけど・・・取れないの。」
僕はそっと、茶色の皮のような物をひっぱってみた。脆そうに見えたそれは、
まるでポリエステルのように丈夫で、取れそうに無い。同時に桃子が細い声を上げた。
痛いらしい。皮を広げ、中を見て見る。
「う・・・。」
中には、まるでカブトムシの幼虫のような物が蠢いていた。
違っているのは、頭が無い事と、白く濁った体の中にびっしりと血管だろうか、
赤い筋が浮き上がっているのが見えている。
「なんだよこれ!取ってやればいいじゃないか!」
「だから、取れないんだってば・・・。」
「取れないって・・・。」
僕は近くにあった枯れ枝で、その白い物体を突付いて見る。
それはぐにゃりと体を捩ったが、桃子の腹から離れる様子は無い。
よくよく見て見ると、その物体の一部が茶色の皮を通して桃子のおなかに繋がっているようだ。
「うっわ、これなんだよ寄生虫!?とにかく病院にでも・・・」
そう言いかけたとき、パチッ!と何かが弾けるような音がした。
僕は言葉を止めて顔を上げた。姉の方から音がしたように思ったのだが、
姉は相変わらずあらぬ方向を見てこちらを見ない。
静電気か何かかな・・・と思いなおして、また桃子に目を戻しかけた。
その時ふと、姉の横顔、あごの辺りの色の白さが気になった。
よくよく見てみると、細かい、毛細血管のようなものが浮き出ているように見える・・・。
まるでアル中患者のように網目状に、血管が浮き出ているのだ。
僕は立ち上がると、姉貴の正面に回り込もうとした。
姉貴は僕の動きに合わせるように体を捻り、僕を見ようとしない。
「ちょっと・・・姉貴。」
すると姉貴は顔を背けたまま、何も言わずに玄関の方に向かって歩き出そうとした。
僕は咄嗟に姉貴の腕を取り、振り向かせた。
「うわっ!!」
見えなかったほうの顔半面に、びっしりと赤い毛細血管が浮かんでいる。
目も真っ赤に充血していた。
そして目の下、頬のあたりに、まるで大きなホクロのように付いた異様な、茶色の物体。
「取れないのよ・・・ねえ・・・取ってよ・・・。」
と、ここで目が覚めた。どなたか続き、作ってくれませんかあ?
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1年以上ぶりの帰省になる。
あの神社の先を曲がれば、あとは実家の前まで真っ直ぐな一本道だ。
すでに懐かしい香りが漂ってきている。
春先のこの季節、沈丁花や焚き火のにおいが混ざった田舎独特の香りが、心を落ち着かせる。
小さい頃学校帰りにあの角を曲がると、飼っていた犬が出迎えに走ってきたものだった。
当時は犬も半分放し飼いのような物だった。それでも文句を言う者も無く、
人にも犬にも良い時代だったのかもしれない。
果たしてその角を曲がったとき、僕は一瞬立ち止まってしまった。
50mほど先、実家の門の前にちょこんと座った姿が、夕日に影を映している。
まさか・・・。当時飼っていた犬はとうの昔に死んでいる。
よくよく目を凝らすと、姉の家で飼っている犬だと分かって、一人苦笑いをした。
勘違いもはなはだしい。桃子という名前のその犬は、母親がマルチーズの雑種だ。
全身白く長い毛に覆われているが、所々薄茶の毛が混じり、
それが白い毛と混ざって桃色に見えるのが名前の由来らしい。
買われて来た時から良く知っている僕は、親族の中でも特に彼女と仲が良い。
さらに歩いて実家に近づくと、家の中から黒髪をセミロングに伸ばした女性が出てきた。
姉貴だった。しばらく見ないうちに髪型を変えたらしい。
「モモー。」小さく呼びかける。
まだかなり離れているが、彼女は私の声に気が付いてこちらを振り向いた。
いつものように、白い毛玉のようになって駆けて来るかと思いきや、
のそりと立ち上がると、すたすたと歩いて近寄ってくる。どうにも元気が無い。
道の途中で桃子と出会うと、しゃがんで頭を撫ででやった。
桃子は嬉しそうに目を細め、僕を見詰めてくる。
「どうした?元気ないな。」
桃子が返事をするわけも無く、キョトンとした大きな目を見開いた。
僕は立ち上がると彼女を従えて実家にたどり着いた。
「よう、久しぶり。」
姉に声をかけると、姉はそっぽを向いたまま、
「ああ・・・帰ってきたの。」
そう言った。自分も久しぶりだろうに、ヘンな事を言うなと思いつつも、僕は言った。
「モモ、元気無いんじゃないの?」
「そう・・・そうれが・・・おなかに何か出来ちゃってるの。」
「おなか?」
姉は相変わらずそっぽを向いたまま、返事もせず頷いた。僕は桃子を呼ぶと、
側に寝転がせた。そしておなかをさすってやろうと伸ばした右手を、思わず引っ込めた。
「な・・・。」
僕は絶句してしまった。桃子のおなか、6つ並んだ乳首の脇のあたりに、
3センチくらいだろうか・・・茶色の、セミの抜け殻みたいな物が付いている。
そしてその真中がホウズキのように弾け、中に白い物体が見えている。
「何・・・・これ・・・。」
「分からないんだけど・・・取れないの。」
僕はそっと、茶色の皮のような物をひっぱってみた。脆そうに見えたそれは、
まるでポリエステルのように丈夫で、取れそうに無い。同時に桃子が細い声を上げた。
痛いらしい。皮を広げ、中を見て見る。
「う・・・。」
中には、まるでカブトムシの幼虫のような物が蠢いていた。
違っているのは、頭が無い事と、白く濁った体の中にびっしりと血管だろうか、
赤い筋が浮き上がっているのが見えている。
「なんだよこれ!取ってやればいいじゃないか!」
「だから、取れないんだってば・・・。」
「取れないって・・・。」
僕は近くにあった枯れ枝で、その白い物体を突付いて見る。
それはぐにゃりと体を捩ったが、桃子の腹から離れる様子は無い。
よくよく見て見ると、その物体の一部が茶色の皮を通して桃子のおなかに繋がっているようだ。
「うっわ、これなんだよ寄生虫!?とにかく病院にでも・・・」
そう言いかけたとき、パチッ!と何かが弾けるような音がした。
僕は言葉を止めて顔を上げた。姉の方から音がしたように思ったのだが、
姉は相変わらずあらぬ方向を見てこちらを見ない。
静電気か何かかな・・・と思いなおして、また桃子に目を戻しかけた。
その時ふと、姉の横顔、あごの辺りの色の白さが気になった。
よくよく見てみると、細かい、毛細血管のようなものが浮き出ているように見える・・・。
まるでアル中患者のように網目状に、血管が浮き出ているのだ。
僕は立ち上がると、姉貴の正面に回り込もうとした。
姉貴は僕の動きに合わせるように体を捻り、僕を見ようとしない。
「ちょっと・・・姉貴。」
すると姉貴は顔を背けたまま、何も言わずに玄関の方に向かって歩き出そうとした。
僕は咄嗟に姉貴の腕を取り、振り向かせた。
「うわっ!!」
見えなかったほうの顔半面に、びっしりと赤い毛細血管が浮かんでいる。
目も真っ赤に充血していた。
そして目の下、頬のあたりに、まるで大きなホクロのように付いた異様な、茶色の物体。
「取れないのよ・・・ねえ・・・取ってよ・・・。」
と、ここで目が覚めた。どなたか続き、作ってくれませんかあ?
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