科学は面白い -41ページ目
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季節はずれですが、台風の話

 季節はずれの話ですが、年が改まると、台風の番号もリセットされて1からになるのはご存じと思います。昨年の最初の台風KONG-REYが発生したのは3月31日ですから、まだまだ鬼の笑う話かも知れません。


 えっ? 「KONG-REY」って? ハリケーンじゃあるまいし、台風は番号で呼ばれるのではなかったか? と思われている方も多いと思います。事実私は、「番号もリセットされて1からになる」と書いたばかりです。ですが、台風が「15号」などと番号で呼ばれるのは現在では日本国内の話で、2000年以降、国際名称は、WMOの台風委員会(Typhoon Committee)が作成したリストによって、台風の国際名称(アジア名)がつけられており、これが国際的には通用しています。例えば、2004年に西日本に上陸して死者不明98名という大きな被害をもたらした23号台風は、たまたま日本が提唱した名前、TOKAGEがつけられています。


 ところが一昨年、アジア名のない台風が現れました。これは、北東太平洋で発生したハリケーンが西へ西へとすすみ、東経180度を超えて、台風に変身?したためで、ハリケーン時の名称、IOKEがそのまま使われました。この台風は、南鳥島にかなり接近しましたので、私の知る範囲で、「日本に最も接近したハリケーン」ということになります。


 さて、ハリケーンは、北東太平洋、北大西洋で発生した熱帯低気圧の呼称で、北西太平洋と南シナ海で発生したものは台風、インド洋、南太平洋で発生したものはサイクロンと呼んでいます。統一すれば良さそうなものですが、歴史的経緯で、なかなかそうはいきません。もっとも、これら全体を呼ぶときには「トロピカルサイクロン」と呼ぶことがあります。


 「ちょっと待て。南大西洋が抜けているぞ」と思われた方、ご慧眼です。実際私はわざと抜いて書きました。実は、南大西洋ではほとんど熱帯低気圧が発生しないのです。海水温が低いからと考えられていますが、2004年3月24日から28日にかけて、ブラジル近くで熱帯低気圧らしきものが観測されました。いや、観測された等という生やさしいものではなく、国も国民も「そんなもの聞いたこともない」状況だったため、被害が拡大し、3億5000万ドルにのぼる被害を出しました。ただし、これが熱帯低気圧だったかどうかは、まだ結論されていません。はっきりした「 」も観測されていますので、見かけは立派な熱帯低気圧ですが・・・。


 なお、物理学的理由で、台風やハリケーンが赤道を越えてサイクロンになることはありません・・・と言いたいところですし、実際、「この台風が赤道を越えました」という確実な情報を私は持ち合わせていないのですが、まだ私が大学院生だった頃、確か「科学朝日」誌上だったか、「無理矢理赤道を越えようとした台風(もしくはハリケーン)が、2つに分裂し、一つは南半球へ、一つは北半球へ進行した」という記事を、気象衛星の画像付きで見たような記憶があります。どなたかご存じの方がおられましたら、コメントしていただけましたら幸いです。

もう一つの地球の月?

 これももう1昨年の話になりますが、冥王星が、惑星から準惑星に格下げになったニュースには、少し驚かれた方も多かったと思います。私が小学生の頃は、木星の衛星はまだ12個でしたが、今や覚えきれないほどの衛星が見つかっていますし、輪っかも見つかっています。観測装置の発達などにより、宇宙や太陽系について知られていることも、革命的に増えてきました。冥王星の格下げもその一環だったと考えるべきでしょう。

 さて、太陽系と言えば、一番身近な地球について、あまり知られていないことがあります。地球の衛星は「月」だけだと思っておられると思いますし、事実、学校の教科書にもそうとしか載っていません(だから教科書って面白くない)。しかし、「衛星」を、「惑星の周りを回る天体」と解釈すると、地球は後少なくとも2つ、衛星を持っています、又は、持っていました。

 何れも最近発見されたもので、2003YN107とか、2004GU9という、味も素っ気もない名前が付けられています。しかし、例えば、2003YN107は、1996年から2006年の間、地球の周りを文字通り月のように回っていました。2004GU9に至っては、今まで500年間と今後500年間、地球の周りを回ると考えられています。

 もっとも、天文学的スケールから考えれば、地球の周りを回っている期間は「瞬間的」なものですので、「衛星」と呼ぶのは少し抵抗があります。そこで、これらの天体は、「準衛星」と呼ばれています。この他にも地球に近いところを衛星っぽく回っている天体は、2002AA29やクルイシンなどがあり、クルイシンの軌道 等は、地球から見ると地球の周りを回っているように見えますので、「地球の小さな友達」と言えるかも知れません。

 まだまだ太陽系も面白いものが転がっているはずです。

最初にポアンカレ予想

 1昨年、ポアンカレ予想が、ペレルマン博士により解決したことはご存じの方も多いでしょう。しかし、「そうは知っているけどポアンカレ予想って何だ?」って方も少なくないと思います。

 n次元に拡張されたポアンカレ予想そのものは、「単連結なn次元閉多様体はn(n次元球面)に同相である」という、単純なものです。ですが、そう書かれてもピンと来ないのも人情?でしょう(「わかってる」という方はごめんなさい)。

 正しくこの問題を理解するには、どうしても大学レベルの数学の知識が必要なので、無理を承知で俗っぽく書けば、「単連結なn次元閉多様体」というのは、例えば、ひもの端と端をくっつけたものと考えていただければいいかと思います。これが例えば、球面にかかっているならば、何とかはずすことができますが、トーラス(ドーナツのような形)のようなところにかかっていると、はずせない場合が出てきます(はさみで切るというのはナシ)。これをn次元に拡張したものが一般化ポアンカレ予想と考えていただければ、当たらずとも遠からずかなと思います。先述のように、n=2の場合は、よく知られて(というより自明に近い)いましたし、n≧5では、「神の見えざる手?」が働くことができますので、先に証明されました。n=4も、フリードマン博士によって証明されましたので、最後にn=3が残ったと言うことになります。これを証明したのが、ペレルマン博士です。

 ペレルマン博士の物語も面白いのですが、理系人間にとって看過できないのは、この論文が、権威ある雑誌に投稿されたのでも、十分な査読を経てから公開されたのでもなく、arXivという、論文のプレプリントサーバに、ポンと置かれたと言うことです。

 通常、理系の研究成果は、権威ある国際学会への発表や、権威ある雑誌論文としての公開という形を取ります。「権威ある」研究者が査読をして、「OK」となって初めて、論文が発表されるのですが、このフィールズ賞受賞論文と言っていい論文が、何の権威もないところに公開された(そしてそれだけで、後の処理は行われていない)のですから、前代未聞に近いことです。

 しかし、よく考えるまでもなく、田中耕一氏のノーベル化学賞受賞対象も、化学分野の権威ある雑誌に投稿されたものではありませんし、同氏は、博士も修士も取得してはおられません。

 「権威」とは何か、考えさせられる話ではあります。

 このブログでは、科学の話をできるだけ平易に語ることで、多くの皆様に、科学に興味を持っていただこうと考えています。宜しくお願い致します。
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