▼お金には三つの機能がある。「価値の保存」「交換」「尺度」である。これらを満たすものが通貨として機能してきた。古来、貝殻はまさにその役割を担っていた。持ち運びやすく、数を数えやすく、腐らない。人々はそれを基準にモノを交換し、価値を測っていた。

▼通貨とは何か。通貨=国の信用、株式=企業の信用など、いずれも実体ではなく「信頼」によって支えられている。通貨は、いつでも交換できるという約束の上に成り立つ。かつてその約束を担っていたのが貝であり、現代では政府が刷る紙幣である。

▼基軸通貨と言われる「ドル」の「信用」に、いま陰りが見え始めているのではないか。かつて金は1トロイオンス=35ドルと固定されていた。現在は約4400ドル前後で推移している。実におよそ125倍である。これは金の価値が上がったというよりも、ドルの価値がそれだけ薄まったとも言える。さらに米国の債務は約34兆ドル規模に達し、なお増え続けている。刷り続けられる通貨は、信用を維持できるのか。それとも静かに毀損していくのか。金価格の上昇は、この問いへの市場の答えのようにも見える。

▼大航海時代、ヨーロッパはアフリカに大量の貝を持ち込んだ。供給が急増した貝は価値を失い、通貨としての信用は崩れた。増やしすぎた通貨は、自らの役割を果たせなくなる。現代、刷られ続けるドルはどうか。私たちはいま、形を変えた「貝」の行方を見ているのかもしれない。