川のほとりに一つの石が他の石同様に縮こまっている。
その様子は一見滑稽で、少し目を外すと、全く見えなくなったしまうのである。一つ一つ。その石を探して、頭の中で区別しているつもりでも、すぐにパッと消え行ってしまうのである。そんな石の上に一匹の蝉の死骸が落ちる。夏を感じさせるアブラゼミは、死期近く、その石の上で頽れる。ブーンと息を引き取って、静かに世を後にする。周りの木々は存外興味がなさそうに、いつも通り葉音を鳴らしている。まるでほかの石と同じように。
一匹いなくなってしまって、山のみんなは何か物足りないと思っても、どうしても思い出せない。その石は蝉の体を受けて、かすかに音をならす。コトッ、と。そんな音を遮って、横を流れる川は、見向きもしない。ザー、と。忙しそうにせっせと流れている。