そろそろ旅に出たい。

パンデミックやロシアのウクライナ侵攻を理由に、どうしても考え方がネガティブになり行動力もなくなっていた私。

誰も知人のいないイタリアに飛んで来たときの勇気はどこへ行ってしまったのか。

若さから怖さを知らなかっただけなのかと悩んでいた時に出会った本二冊。

一冊目は、フランス人作家Marguerite Yourcenarマルグリット・ユルスナールの「Memorie di Adriano ハドリアヌス帝の回想」。昨年、ローマのハドリアヌスに捧げられた神殿を訪れた後にこのブログ記事を書くにあたり、その存在を知り、次に読むと決め、デスクの上に積んでいた本。

『ハドリアヌス帝の政治の方向性をあらわしたアドリアーノ神殿』今日、古代ローマ五賢帝の中でも非常に評価の高いハドリアヌス。しかし、当時の元老院議員の間ではかなり評判が悪かったようです。先代トライヤヌス帝の時代にローマ…

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もう一冊は、ちょうどその時、イタリアに住む日本人の大親友がかしてくれた須賀敦子さんの「ユルスナールの靴」。戦後間もなくイタリアに留学し、イタリア人と結婚された須賀敦子さん。私にとっては大先輩にあたる彼女の本はずっと読みたいと思っていました。

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イタリアウンブリア州への扉YUKOさんのブログです。最近の記事は「昨日見た映画（画像あり）」です。

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同じ時期に私の手元に来た二冊の本。すごい偶然にもユルスナール繋がりなんです。

久しく祖国を離れノマッド（放浪の民）であると感じていた須賀さん。

帰るべき故郷を失い一種のノマッドであったユルスナール。

知性では到底かなわない二人から、そろそろ旅に出る時が来たのではと言われたようです。

そして、ユルスナールが描いた皇帝ハドリアヌスも、快適なローマに長期間留まることなく大きな帝国を視察して回った生涯でした。

そうです。視察して回ったのであって、それまでの皇帝のように国境で戦争を行い、領土を拡大したわけではありません。

ハドリアヌス帝が後継者に宛てた手紙の形式をとっているこの小説の中で、すでに巨大な帝国をさらに拡大することは、悪性腫瘍のような結果をもたらす自殺行為でしかないとユルスナールは語っています。

このように、この小説では、ハドリアヌスの一生を通して、芸術、愛情、病気への苦悩などユルスナールの哲学が、近代的視点から書かれています。歴史的に非常に忠実で、著者の想像である部分や歴史上の事実であってもハドリアヌスとは関係が本当はない点などは、最後の覚え書に全て書かれています。

このエイナウディ社のイタリア語訳は、須賀敦子さんが読まれた物と同じですが、かなり難しかったです。私が普段イタリア語の小説を読む場合は、知らない単語を調べることはあっても、そのままイタリア語で理解して読み進めます。しかし、この「ハドリアヌス帝の回想」は、何度か文章全体を日本語に訳して理解しなければわからない箇所がありました。抽象的なことを言葉で表現されている場合は日本語でも難しいのですが。。。

須賀敦子さんの本は、他にも何冊か今回読みましたが、あの時代に女性一人でヨーロッパに渡り、たった10年ほどしかイタリアに滞在していなかったにもかかわらず、イタリア人への洞察力や親交の深さ、すべてが尊敬です。

にもかかわらず、彼女の文章からは、「私は賢い人間だ」感が全くにじみ出てこない柔らかさがあります。あぁ、私もこんな文章が書けるようになれたらな。

それは、死ぬまでいくら勉強しても叶いそうにはないから、せめて旅に出よう！

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「ハドリアヌス帝の回想」多田智満子さんのこの日本語訳はWikipediaによると非常に反響が大きく、華麗な訳文を読んだ三島由紀夫や塚本邦雄が絶賛したようです。

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