平成28年(行ウ)第10号 非開示処分取消請求事件 山口県完全敗訴 判決全文

 

山口県完全敗訴事件。
山口県の闇。
黒塗りは、山口県の闇の色。

児童相談所の元要保護児童が、
不適切に保護を解除された結果、
自殺してしまいました。

 

保護解除は、
児童相談所の判断ミスですので、
検証が必要なのですが、

山口県は、断固拒否。

検証がなされない以上、

児童相談所の判断ミスでつらい目に合う児童

が続出することとなります。

要保護児童に、適切な保護をお願いします。


********************************
平成30年10月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(行ウ)第10号 非開示処分取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成30年7月9日

判決
●●市●●丁目●●-●●
原告 ◆◆ ◆◆
同訴訟代理人弁護士 山本 雄大

山口市滝町1番1号
被告 山口県
同代表者兼処分行政庁 山口県知事
村岡 嗣政
同訴訟代理人弁護士 ●● ●●
同指定代理人 ●● ●●
●● ●●
●● ●●
●● ●●
●● ●●

主文

1 山口県知事が
山口県個人情報保護条例に基づき
原告に対してした
平成27年2月13日付け個人情報非開示決定処分
を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
主文同旨

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,山口県個人情報保護条例
(平成13年12月18日山口県条例第43号
(平成27年山口県条例第3号による改正前のもの。以下「本件条例」という。))
10条1項に基づき,
山口県岩国児童相談所が所管する原告の亡長女
(以下「本件児童」という。)
に係る個人情報
の開示を請求したところ,
処分行政庁(山口県知事)から,
本件条例の定める非開示情報
に該当することを理由とする非開示決定処分
を受けたことを不服とし,
これに対する異議申立ても棄却されたことから,
同処分の取消しを求める事案である。

2 本件条例の定め
 本件条例の定めのうち本件に関係するものは,
別紙に抜粋するとおりである。

3 前提事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)原告は,
平成8年●●月●●日,
訴外●●●●と婚姻の届出をし,
平成9年●●月●●日に長女である●●(本件児童)を,
平成13年●●月●●日に二女を,
それぞれもうけたが,
平成18年●●月●●日,
上記二子の親権者をいずれも母である訴外●●●●と定めて調停離婚した
(甲6,弁論の全趣旨)。

 本件児童は,上記離婚後,親権者である母に監護養育されていたが,
平成26年11月●●日午●●●●時頃,
自宅で自殺した。

(2)ア 原告は,
平成27年1月6日付けで,本件条例10条1項に基づき,
山口県知事に対し,
「岩国児童相談所などで所管する●●●●に関する
(◆◆◆◆あるいは●●●●の父親に該当する箇所のほかすべての書類)
書類」
(以下「本件情報」という。)
の写しの交付を求める個人情報開示請求書
を山口県知事あてに提出した
(以下,この請求書による開示請求を「本件開示請求」という。)。
 本件情報は、
本件児童に係る児童記録一式
であり,
本件児童に関する氏名等の基本情報をはじめ,
相談の内容や家族の状況,
具体的な援助方針と
その後の経過,
関係機関又は関係者等からの情報及び
本件児童に係る評価
等が記載されている。
(甲1,2,乙3)

イ 山口県知事は,
平成27年2月13日,本件開示請求について,
本件条例12条1項に基づき,
(ア) 開示請求者以外の個人に関する情報
であり,
開示することにより,
開示請求者以外の特定の個人を識別できる情報
であって、
本件条例16条3号イ,ロ,ハのいずれにも該当しない(同号本文該当)

(イ)開示することにより,関係者,関係機関との信頼関係が損なわれるなど、
今後の児童福祉業務の適正な遂行に著しく支障を及ぼすおそれがある
(本件条例1 6 条8号該当)
ことを理由として,
本件情報の全部を開示しない旨の
個人情報非開示決定処分
(平26岩児第208号。以下「本件処分」という。)
をした。

(3)原告は、
平成27年2月19日,本件処分の取消しを求めて異議申立てをした(甲4)。

(4)上記異議申立てに対し,山口県知事は,
平成28年3月29日,
本件情報が本件条例16条3号に該当し,
同条8号該当性については判断するまでもないとして
これを棄却した(甲5)。

(5)原告は、
平成28年7月28日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

4 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)本件情報が
原告にかかる「自己の個人情報」(本件条例10条1項)
に該当するか(争点1)

ア 被告の主張
(ア)本件情報は,
既に死亡した本件児童の個人情報
であって,
原告の個人情報
ではない。

(イ)本件条例10条1項は,
開示請求権の対象を「自己の個人情報」と定めているところ,
「自己の個人情報」とは,
本件条例2条1項に定める定義によれば
「生存する個人に関する情報であって,
当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により
特定の個人を識別することができるもの
(他の情報と照合することができ,
それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」
であり,
死者に関する情報

本件条例の対象から除外し,
例外として,
死者の相続財産等に関する情報

相続人の情報
と認められることがあるにすぎない。

 本件開示請求の対象とされた
本件児童の個人情報
は,
実施機関の職員が本件児童から直接聴取した情報
のほか,
関係機関又は関係者等から聴取した本件児童に関する情報,
及び
実施機関が本件児童に対する援助業務に必要な情報
として関係機関又は関係者等から取得した文書等
を含めた個人情報
であって,
相続財産等に関する情報
とは認められず,
本件条例10条1項の
「自己の個人情報」
に該当しないことは明らかである。

(ウ)本件情報は,
本件児童の生前の人格の発露としての発言等を含み,
児童相談所において本件児童の福祉の観点から作成されるものとして,
全体として
本件児童に関する個人情報
に該当するところ,
これらが本件児童の死亡によって遺族自身の情報
と評価し得る性質のものに変換されるものではない。

なお,個人情報開示手続上,
遺族の財産に関する情報
であるかが問題となるのは,
前提として
遺族の財産に関する情報
が含まれると
客観的に認められる根拠
が自明であると認められる場合であって,
本件情報自体をもって
それが自明であるとはいえない。

(エ)また,本件児童の死亡当時,
原告が
非親権者でありかつ
非監護親であったこと,
扶養義務を履行していたことや
面会交流の具体的実施状況等
についての具体的主張立証
もないことからすれば,
原告が本件児童との関係で
家族共同体の一員であるとはいえないし,
本件情報の性質に照らしても,
原告が遺族として
その情報を管理することが
社会通念上当然であるとはいえない。

(オ)以上によれば,
本件情報を
原告の個人情報
ということはできず,
原告は
本件情報の開示請求をする資格
を有しない。

イ 原告の主張

以下のとおり,
本件情報は
原告自身の個人情報
であるから,
原告は,本件条例10条に基づき,
実施機関である山口県知事に対し開示請求権を有する。

(ア)死者の個人情報
のうち,社会通念上,
開示請求者自身の個人情報
とみなせるほど開示請求者と密接な関係がある情報,
家族共同体の一員として関心を持ち,
その情報を管理することが社会通念上も当然と認められる情報,
死者である子の成長に関わりのある情報
及び
死者である子に対する不法行為等による被害等に関する情報
については,
遺族自身の個人情報
として開示請求が認められるべきであり,
これが
人格の発露に関わりのない情報
のみに限られる根拠はない。
 本件情報は,
本件児童にかかる児童相談所の児童記録一式
であり,
本件児童の人格的成長に関わる情報
であるから,
原告が
家族共同体構成員の一員である親
として関心を持ち,
管理することが社会通念上も当然と認めしられるものである。

 また,本件情報には,
本件児童がいかなる加害行為を受けていたのかという情報
も含まれていると考えられる。

(イ)原告は,
本件児童の自殺に寄与した者
がいる場合,
同人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権

本件児童から相続し,あるいは
同人に対して
固有の損害賠償請求権
を有することとなる。

したがって,
本件情報は,
そのような者の有無を明らかにし特定する資料
となるものとして,
原告の相続すべき財産ないし
原告が有する損害賠償請求権に関する情報
に該当する。I

(2)本件条例16条3号を理由に不開示とすることの相当性(争点2)
ア 被告の主張
(ア)本件情報は,
その全てが
開示請求者以外の個人(本件児童)に関する情報
であるから,
本件条例16条3号の非開示事由がある。

(イ)本件情報に記載された公務員の職又は氏名
についても,
本件情報と不可分一体の情報
であるといえるから,
本件条例16条3号イないしハに規定する事由
は認められない。

イ 原告の主張
(ア)死者に関する情報
については,
当該情報が
同時に
遺族自身の個人情報
に該当する場合には,
本件条例16条3号該当性
は否定される。
親権を有しない親であっても,
養育費支払義務を負い,
面会交流を行うなどして
未成年子との親子関係を継続し,
親権者による親権の行使を是正する立場にあり,
これらのために必要な情報
は,
家族共同体の一員として知っておくべき情報
であり,
親自身の個人情報
に当たる。

特に本件では,
本件児童の自殺の経緯を解明する手がかりとなる事実
が記載されている蓋然性も高く,
近親者自身も固有の損害賠償請求権
を行使することができることからすれば,
原告自身の個人情報
に当たることは明らかである。

(イ)仮に本件情報が
本件条例16条3号本文
に該当するとしても,
同号ハによれば,
本件情報のうち,
児童相談に当たった公務員等の職又は氏名であって,
当該公務員の職務の遂行に係る情報
については,
開示されなければならない。

(ウ)なお,相談受付台帳における「保護者氏名」や
対応に当たった職員の氏名
等の情報は,
本件児童の情報
とはいえず,
容易に区分可能であるから,
すべての情報

本件児童の情報
と不可分一体であるとする被告の主張
は失当である。

(3)本件条例16条8号を理由に不開示とすることの相当性(争点3)
ア 被告の主張
(ア)児童相談所が
個別の相談事案において取り扱う
情報
については,
これを他の公的機関や民間事業者等からも収集しているところ,
関係機関等
は,
それぞれが守秘義務を負う中で,
当該情報が児童相談所から外部に開示されないこと
を前提として収集に応じている。
仮に,このような情報が原則的に開示されることとなれば,
児童相談所は,
関係機関等との間の信頼関係を失い,
関係機関等が心情的あるいは法的に
児童相談所への
情報の提供や
率直な意見の陳述
に抵抗を示すことになり,
ひいては,従前の水準で情報の提供を受けることができなくなり,
個別の相談事案において
具体的な援助方針の決定の基礎となる情報
が不足したり,
情報取得事務に要する手間が増加したりすることにより、
相談援助業務全般に係る事務が滞ることとなる。
 また,児童を担当する公務員の職又は氏名を公表することとなれば,
当該児童に係る情報
を得ようとして,
担当者に対する直接の働き掛けがなされるおそれがある。

 さらに,本件情報は児童の内面を表すものであり,
極めて機微にわたる私的な情報
であるから,
児童にとっては
親であったとしても知られたくない情報
が含まれている。

このような情報

親の請求により開示される可能性があるとなった場合,
児童自身が,児童相談所職員との面接で率直で正直な陳述を行うことができなくなり,
児童相談所の円滑な事務の実施に著しい支障が生じる。
以上のとおり,本件情報を開示した場合,
児童相談所における事務の実施が
著しく困難になるというべきであるから,
本件情報全体が
本件条例16号所定の非開示事由
に該当する。

(イ)なお。本件条例17条は,
非開示情報と
そうではない情報
との区分が容易にできる場合に
部分開示をすべきことを規定しているところ,
これらの区分が容易にできない場合には部分開示をすることはできない。
本件情報は,
不可分一体性を有するのであり,
本件条例第17条で定める部分開示をすべき場合
には該当しない。

児童相談所では,その運営に著しい支障が生じないよう,
外部に開示されることが予定されるものと
そうでないもの
を区分しており,
本件情報は,
全体として児童相談所が内部的に整理する必要のある文書
として区分されているという性質上,
不可分一体性を有する。

 また,児童相談に至る理由,時期,場所,対応した職員,面談方法などは,
児童本人に係る周辺情報を含む
断片的な他の個別情報と結びつき,
一体となって初めて有機的な情報
として意味を有するものであって,
児童相談所の機能からしても
児童本人の立場から考えても
単独や意味を有するものではないから,
項目別に切り分けて考えることは
文書の性質上妥当ではなく,
全体について不可分一体性を有するものである。

さらに,
児童相談所と関係機関等との関係からしても,
連絡,協議等の情報が開示されることとなった場合に,
関係機関等が
児童相談所への情報提供や
率直な意見の陳述
に抵抗を示すことになり,
児童相談所の円滑な事務の実施を著しく困難にする可能性が高いから,
この意味でも
不可分一体性を有する情報
である。

イ 原告の主張
(ア)被告の主張する児童相談所における円滑な事務の実施に対する支障
は,
抽象的なものにすぎない。
また,
本件児童が親に知られたくないとの意向を有していたこと
を裏付ける証拠もない。

(イ)仮に非開示とすべき部分があるとしても,
部分開示の余地があることにつき
前記(2)イ(ウ)のとおり。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件情報が原告にかかる「自己の個人情報」(本件条例10条1項)
に該当するか)について

(1)本件条例は,個人情報にかかる本人の権利利益を保護することを目的とす

るものであり(本件条例1条),
死者に関する情報
の保護によって
遺族等の第三者の権利利益を保護すること
は予定されていない。
 しかしながら,
当該死者と特に密接な関係を有する遺族等
については,
社会通念上,
当該死者に関する個人情報
が,
同時に遺族等「生存する個人」自身の個人情報
に当たる場合があり得るから,
そのような情報
については,
当該「生存する個人」に関する個人情報
として,
本件条例による保護の対象となるものと解するのが相当である。

そして,死者が未成年者である場合には,
相続人たる地位を有する父及び母
は,
当該未成年者の権利義務を包括的に承継する者
として,
特に密接な関係を有し,当該未成年者にかかる情報
が,
社会通念上,
相続人たる地位を有する父又は母自身の個人情報
と同視し得る余地があると考えられるから,
原告は,本件条例10条に基づき,
本件児童にかかる個人情報

自己の個人情報
として,
開示請求をする適格を有するものと解するのが相当である。

 なお,生前の親権の有無については,
親権制度が
子を監護養育する者の権利義務を定めて
当該子の福祉・利益を保護するためのものであること
に照らし,
親権に服する子の死亡後は,
親権の有無によって子との関係を別異に扱う必要はない
というべきである。

(2)したがって,争点1についての被告の主張は採用できない。

2 争点2(本件条例16条3号を理由に不開示とすることの相当性)について

(1)認定事実
 前記前提事実に
証拠(甲15ないし20)及び
弁論の全趣旨
を総合すると,
以下の事実が認められる。

ア 本件児童は,小学校2年生の頃から発達障害が疑われ,
小学校
2年及び
5年在学中に児童相談所が関与し,
小学校5年に在学中の
平成20年9月に児童相談所から紹介された
広島西医療センター

●●●●及び
●●●●
と診断され,
外来面談を継続していた。
その後,中学校3年に在学中の
平成24年6月1日に児童養護施設に入所し,
平成26年4月6日,
自宅から通学可能な定時制高校への編入に伴って
同施設を退所した。

イ 本件児童は,
平成26年11月●●日,自宅で自殺した。

(2)ア 前記判示のとおり,
死亡した未成年者にかかる個人情報
については,
その相続人たる地位を有する父又は母自身の個人情報
と同視し得る余地があると考えられるところ,
本件情報は,
家庭及び地域における児童養育を支援するための行政機関である児童相談所
が,
その業務のために作成した児童記録一式
であるから,
その性質上,
子の生前,その養育を直接的又は間接的に担っていた
子の相続人たる地位を有する父又は母
の個人情報
と基本的に同視し得る
ものと解するのが相当である。

イ 他方,本件条例16条3号は,
開示請求者以外の個人に関する情報
が含まれる情報
(事業を営む個人の当該事業に関する情報
を除く。)
について,
同号イないしハに掲げられる情報
を除き,
実施機関が当該個人情報を開示しないことができる旨を認めている。

そして「個人に関する情報」には,
生存する個人に関する情報
のほか,
死亡した個人に関する情報
も含まれるところ,
本件情報には
開示請求者である原告以外の者である本件児童や,
その遺族である本件児童の母
に関する情報
が含まれている可能性のあることは否定できない。

 そこで,上記部分についての開示の可否について検討するに,
本件条例16条3号の趣旨は,
自己の個人情報の開示,訂正及び利用停止を請求するという
開示請求者の権利利益と,
当該個人情報に含まれる自己の個人情報が開示されることにより
プライバシーが損なわれる
第三者の権利利益
の調和を図ることにあると解されるが,

①本件条例が,
上記開示請求者の権利を明らかにすることにより,
県民の権利利益の保護を図るとともに,
県政に対する県民の信頼を保護すること
を目的としていること(本件条例1条),

②実施機関は,
開示請求に係る個人情報

第三者に関する情報
が含まれているときは,
開示するかどうかを決定するに当たって,
第三者に対して意見書を提出する機会
を与えること等ができ(本件条例14条1項),
当該情報を開示しようとする場合であって
当該情報が
本件条例第16条3号口又は同条4号イないしハに規定する情報
に該当すると認められるときは,
第三者に意見書を提出する機会
を与える等しなければならないが(本件条例14条2項),
本件条例において,
提出された意見に対して法的拘束力を認めた規定
はないごと,

③一般に,ある個人情報について,
第三者に関する情報
が含まれることは少なくないと考えられるところ,
そのような場合に原則として当該情報を開示することができないとしたのでは,
本件条例の上記趣旨が没却されるのは明らかであること
からすれば,
本件条例16条3号に基づいて個人情報を開示しないことができるのは,
個人情報に含まれた第三者に関する情報
を開示すると,
当該第三肴の私生活に支障が生じる蓋然性があり,かつ,
部分開示とすることによってはこれを阻止することができないという場合に限られる
というべきである。

そして,本件条例は
およそ死者に関する情報
を適用対象外としているとはいえないものの,
死者自ら開示請求権を行使することが不可能であることに鑑みて
「個人情報」の定義から
死者に関する情報
が除かれていることからすれば(本件条例2条1項)、
本件条例において,
死者に関する情報
は,
死者自身の個人情報としては保護されていないものと解される。

そうすると,
本件条例16条3号が
死者に関する情報
を保護の対象としているのは、
死者自身のプライバシーを保護することではなく,
主として,
死者の親族の名誉及びプライバシーを保護すること
に目的があり,
死者の名誉及びプライバシーに対する一般の国民感情に配慮することに附随的な目的
がある
と解するのが相当である。

以上のような本件条例16条3号の趣旨に照らすと,
死者の遺族が
遺族固有の個人情報
であるとして
当該死者に関する情報
の開示請求をした場合は,
当該死者の他の遺族の名誉及びプライバシーを害する目的,態様でなされる等の
特段の事情
がない限りは,
当該情報に
当該死者に関する情報
が含まれていることを理由として開示をしないことは許されない
と解するのが相当である。

ウ そして,原告は,本件児童が児童相談所の援助を受けながら,
どのような経緯で自殺するに至ったのかを知るため,
平成26年1月1日から
同年12月31日までの期間に限定して、
本件情報の開示請求をしたと認められるのであって,
原告の本件情報に対する開示請求には,
死者である本件児童の遺族の名誉及びプライバシーを害する目的
があったとはいえず,
他に前記特段の事情があったことについての主張立証もない。

したがって,本件情報について
本件条例16条3号の非開示事由があるとする被告の主張
を採用することはできない。

3 争点3(本件条例16条8号を理由に不開示とすることの相当性)について
(1)本件条例16条8号は,
県の機関等が行う事務又は事業に関する情報
であって,
当該事務又は事業の性質上,開示をすることにより,
当該事務若しくは事業の実施の目的を失わせ,又は
当該事務若しくは事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあるもの
が含まれる個人情報
について,
これを開示しないことができる旨
を規定する。

 前記のとおり,
本件条例が,
県等が保有する個人情報

開示,訂正及び利用停止を請求する権利
を明らかにすることにより,
県民の権利利益の保護を図るとともに,
県政に対する県民の信頼を保護すること
を目的とすること(本件条例1条),
本件条例16条8号が,
同条5号と異なり,
実施機関に
要件該当性の判断に係る裁量
を認めていないこと
を考慮すれば,
同条8号にいう
「当該事務若しくは事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがある」
というためには,
情報を開示した場合には,
県の機関等の事務若しくは事業の円滑な実施に著しい支障が生じる高度の蓋然性があることが,
客観的かつ具体的な根拠に基づいて認められなければならない
と解するのが相当である。

(2)これを本件についてみると,
本件開示請求の対象たる情報
は,
既に死亡した児童に関する情報
であり,
同時にその親である開示請求者自身の個人情報
でもあるところ,
当該児童に対する相談援助活動

既に終了しているため、
当該事件に関する事務の遂行への支障
は通常は考え難い。
また,児童相談所は,
児童に関する家庭その他からの相談
のうち,
専門的な知識及び技術を必要とするもの
に応ずること,
児童及びその保護者につき,
調査又は判定に基づいて
児童の健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導
その他必要な指導
を行うこと
等の業務を行うところ
(児童福祉法12条2項),
かかる業務を行う児童相談所に対して情報を提供する関係機関等は,
一般に,
児童相談所に提供した情報
のうち,
当該情報を開示してもその事務の遂行に著しい支障を生じる高度の蓋然性がないもの
まで
全面的に開示されないこと
を前提としているとは解し難く,
開示によって,当然に,
児童相談所と当該関係機関等との信頼関係が失われる蓋然性がある
とは認め難い。
また,被告は,
児童を担当する公務員の職及び氏名を公表することとなれば,
当該児童に係る情報を得ようとして,
担当者に対する直接の働き掛け
がなされるおそれがあると主張するけれども,
それにより,
高度の蓋然性をもって,いかなる著しい支障が生ずるのか
についての主張立証はない。

(3)さらに,本件条例17条は,
16条各号のいずれかに該当する情報
が含まれている場合において,
その情報を容易に区分することができるときは,
その情報を除いて、
当該個人情報の開示をしなければならない旨を規定する。

そして,上記規定による部分開示の範囲は,
当該情報の作成名義,
作成の趣旨・目的、
作成時期,
取得原因,
当該記述等の形状,
内容
等を総合考慮の上,
独立した一体的な情報
を単位とするものと解するのが相当であるけれども,
本件において,
関係者からの聴取情報,
客観的な資料に基づく生育歴
等の
事実経過に関する情報

検査等にかかる情報,
医療機関から提供された医学的所見
等について,
その独立一体性が否定され,
非開示情報が記載されている部分
を容易に区分することができるときに当たらない具体的な事情
を認めるに足りる的確な証拠はない。

(4)以上によれば,
本件情報について
本件条例16条8号の非開示事由がある
とする被告の主張を採用することはできない。

第4 結論
以上によれば,
本件情報は,
原告の自己の個人情報に該当し、かつ,
本件条例16条3号及び同条8号に規定する非開示事由
はない
と認められるから,
本件処分は取消しを免れない。
よって,
原告の請求は理由があるから認容することとし,
主文のとおり判決する。

山口地方裁判所第1部

裁判長裁判官 福井 美枝
   裁判官 橋本 耕太郎
   裁判官 清水 萌