61.茶封筒 参銭切手 東京5.5.20消印

宛先 札幌市南四条東四丁目 遠友夜學校 中等部四年生諸君

 差出人 東京府南多摩郡東町田 玉川學園 髙井泉

中等部四年生諸君                           髙井泉

 諸君等とお別れしてから早や三週間も過ぎ去ってしまいました。懐かしい夜學校のこと、円山・藻岩の遠足、運動会、学藝会、海水浴や定山渓の紅葉狩り等、もうもう夫れ等は過去の思出となってしまいました。愈々札幌を後にしたと云ふものゝ、何だか一寸休暇に帰省して近い内また札幌へ帰って行く様な気がしてなりません。札幌出発の時は夜遅いにも拘らず態々駅まで御見送り迄して頂いて誠に有難う御礼申します。昨年の大病があったので汽車中を心配してゐましたが、悪無く帰着はいたしましたものゝ、頭の病のことですね。又、床について安着の報知すらつい思はぬ延引して全く申し訳ありませぬでした。改築なった夜學校を名実共に新しく學校全体を立派にリードして下さい。最高學年の諸君等の力に与ること大であると思はれます。身体が元気になり次第、新渡戸先生のお宅にお伺いして委しい近況申し上げたいと考へてゐます。どうか身体を大切にして一生懸命御勉強あらん事を。

 

 

62.白封筒 参銭切手 本郷5.6.25消印

 宛先 札幌市南四条東四 遠友夜學校内 中四皆々様

 差出人 東京市本郷区元町 文化普及会内 渡辺春江 June 23rd

クラスの皆様

 何時もお元気の御様子お喜び申上げます。先日はあのやうな樂しい集ひのおハカキ頂きましてほんとうにありがたう御座いました。相変わらず呑気者の私、お手紙を頂きましてもどなたにも御返事いたしませず失禮ばかりいたして居ります。もし私をうらんでおいででしたらどうぞこれがほんとうの渡辺と思ひ下さいましておゆるし下さいませ。とうとう待ちに待った夏が耒りました。七月の二十六日には札幌の地につくと思ひますの。近頃の私は唯うれしさの為うきうきして居ります。札幌へ帰ったら一番先に何をしやうかと、そんなことばかりでうれしい所でペン持つ私の頭はボヲ-として居ります。ほんとうに・・・お笑い下さいますな。

 余りのうれしさに先日忠さんから運動会の悲痛な有様のお知らせや又お寫眞など頂きながら、寫眞の批評もお禮もかゝずに居りました。書き出そうとするといつしか空を見つめて時間を浪費させてしまふものですから、つひ書きそびれて居りまして申し訳御座いません。皆々様は学期試験でおいそがしいのに引きかへ私は又なんと云ふ馬鹿な人間なのでせう。・・とりとめもなくうれしくなったりして・・・夜學校に居りました時の樂しかったこと。お轉婆な私は何時も皆様とけんくわして泣いたり、口論したりいたしましたわね。きっと私の去った跡のクラスは靜かだった事と思ひます。本当におはづかしい次第です。お寫眞見て居りますと皆なつかしい方々ばかりでほんとうにうれしゅう御座いました。一人として私忘れた方はありませんわ。でも一番大きい寫眞ではちょっとこまりました。大坊さん余り肥えたものですから藤森先生かしらと思ひました。おもしろく忠さんが各人のことを書いて下さいましたので、ほんとうにおもしろく拝見いたしました。堂の下さんも横山さんも札幌へかへりましたらすぐ分かると思ひます。横山さんは横を向いて堂の下さんは胴をいかしていかにも各人ともにその特徴と云ふべき形をしていられましたのでなお更頭にピーんときます。

小さい寫眞では横山さんと忠さん帽子とりかへてかぶるんですものどちらも一寸わかりませんでしたの。ほんとうに皆さんうれしそうですわ。それにしても金木さんを一度も仲間に入れてあげないなんてほんとうに皆様虫がよすぎると思ひましたわ。私すっかり金木さんに同情しましたわ。こんどうつす時はどうぞ一度位金木先生も入れて誰か先生代理をつとめて下さいませ、お願ひします。

ホ・・・ ほんとに先生と云ふほど上手に寫してありますわ。金木さんにあらためてお禮を申し上げます。耒月帰へりましたらその上にも厚くお禮を申上げますから、此の度は私にめんじて皆様の粗怱をおゆるし下さいませ。おいそがしい所くだらぬ事ばかり書きたてました。悪しからず。御氣嫌やう。お目にかかる日まで。

クラスの皆々様へ  六月二十四日                  渡辺春江

 

 

63.郵便はかき 壹銭五厘 旭川5.7.4消印 「貯蓄あれば力あり」印

 宛先 札幌市南四條東四丁目 遠友夜學校 中等部四年御一同

  差出人 旭川市一条一丁目 宮永敏夫

 自分の都合とは云へ、こんなに早く諸君から退かなければならない事を御許し下さい。愈々今日から腰辨生活です。でも今しばらくは之で角帽もかぶり一応は靴もはいてゐます。

然し拾日もたゝぬ中に安價な麥わらに巻きゲートル、地下たびと云ふ物々しい武装をするようになるでせう。夜學も多くの先生が歸られた事でせうが、新井場、小安先生なども居られる事ですから最上級である諸君は充分に勉強に、とくいの漫談に、夜學のために御奮闘下さい。藻岩の登山も、海水浴も皆諸君には嬉しい一日として今から心をおどらせて居られる事でせう。長い二ヶ月の御別れ、どうか仲良くして耒(らい)秋には力に充ちた諸君の姿を見ませう。

 

 

64.郵便はかき 壹銭五厘 石狩繼立5.7.21消印

 宛先 札幌市南四東四丁目 遠友夜學校内 中等部四年生・先生御一同様

 差出人 継立にて 水木良志子

 隨分嚴しい暑さとなりましたが、皆様にはいかゞお凌ぎおられまするか。日頃御壯健な皆様のこと故、御別條なきことゝ確信いたしておりまするが、一寸御見舞い申上げまする。

私方はお蔭様で何にの変りもなく無事暮らして居りまする、御安心下さいませ。此れよりはますます暑くなるのみ故どうぞ御身大切になさいませ。諸先生方や校舎の皆様方になにとぞよろしく申して下さいませ。では私事にて さよなら

 

 

65.郵便はかき 壹銭五厘 旭川5.7.21消印 「貯蓄あれば力あり」印

 宛先 札幌市南四条東四丁目 遠友學学校 中等部四年生御一同

  差出人 旭川一条の一丁目右三 宮永敏夫

 御元気な皆様の御便りに接し嬉しく存じます。御別れしてから早十日間は過ぎ去ってしまひました。当旭川は其の後日増しに暑気は甚だしくなり、雨は一向にないと云ふ有様で相当に苦しい日を過ごします。でも朝方は一面に霧が立ちこめ晝の暑さとは似ても似つかぬ寒さを玉の肌に覺えます。一昨日即ち十九日はトラックで三里許り離れた測量地へ、荷物、寢具などを運びました。愉快だよ、トラックで田舎の眞直な道を走るのはね。それも三里だ。二十哩位の速さだ。頬にはすゞしい風が当たる。遠くに大雪山が雲髙くそびえてゐる。幾筋にも白く雪渓が目に付く。この雪も今年も口にほほばってくれようと思ふと急にもう山の上にでも着いた気がする。

 歸ってからはじめてこんな愉快な日に接したよ。二度もトラックで往復した。都合十二里だ。事務所の所長と工務長の小児の尋常、私の二年生の愛くるしい男の子二人も一緒に乘ってね、色々な話をして、自分も全く小児みたいにむしょうに嬉しくなったよ。鳩の足が赤い靴下に見えたり雀の腹の黒い襟がネクタイに見えたりさ。小児は良いよ、少しの悪気もない。ピュア-其のものだ。神の様だ。午後又この兒らと三人で公園で少年野球を見てから池の築山に登って遊んだ。山の上から二人が横になって下へ轉るんだ。ころころまりの様に。こんなことをして五時まで三人で遊び盡くした。家に歸ったらぐっすり疲れが出た。君等は今度海水浴に行く相だね。

 毎日毎日その話でもちきってゐるんだろうね。皆にこにこしてさ。黒くなってくると云ったね。どっちが黒くなるかな。どんなに皆がふんばったって僕には刃は立つまい。なにせ四十日野外で過ごすんだからね。とに角、皆が愉快に海水浴の一日を過ごすことを祈るよ。暑いなんて寢冷えなどしない様に気をつけたまへ。誰かほら足が飛び出してゐるぞ。

だらしのない寢相だ。は―旭川は今祭りだ。でも大した愉快ではないよ。友達が少ないからね。元気で夏を過ごして耒れ給へ。

 

 

66.郵便はかき 壹銭五厘 凾館旭川間5.8.3消印

 宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校内 中等部四年皆々様

 差出人 汽中にて 春江

 朝早くからお見送りいただきましてまことにありがたうございました。今汽車は大分長いトンネルを走って居ります。僅か一週間しか居りませんでしたが色々と皆様の御厚意で一年居りましたよりもずっと有益におもしろく遊ばして頂くことが出耒ました。深く深く感謝して居ります。後便で又お便りいたします。

 

 

67.郵便はかき(絵葉書)壹銭五厘切手 青森凾館間5.8.3消印

宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校内 中四の皆様

 差出人 松前丸にて五時二十五分 はる江

 写真 櫻の大沼(詩の大沼)

二伸 無事に船にまでたどりつきました。いよいよ北海道から離れなければなりません。波は靜かなやうですけれど空はすみを流したやうに曇って居ります。帰りたくないと云ふ気持ちがいよいよ海を越すと云ふことによってつよくつよく私の心に迫って居ります。クラスの方々みんな揃ったところをいつ又どうしておあひすることができますでせう。それを思ひますとほんとうにかなしう御座ひましたの。あと五分で船は動き出します。又かきませう。サヨウナラ

 

 

68.郵便はかき(絵葉書)壹銭五厘切手 5.8.4消印

 宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校内 中四の皆々様

 差出人 仙台をすぎる頃 はる江

 写真 大沼名花鈴蘭(詩の大沼)

三伸 緑の中を汽車は苦もなく走って居ります。昨夜はあんなにあやぶまれた天候も今日はきれいにはれて旅するものゝ心を爽やかにしてくれます。所々にポプラの立ちならぶのもなんとなく故郷の町を思出させてなつかしうございます。食を満たした自分はすべてのことを忘れるために今又目をつぶろうと思って居ります。御気嫌四六四く 七時三十分