次の年の夏休みは、ひいじいちゃんの家へ行くことはなかった。

今後もずっとそうだ。

あの家は、もうだれのものでもなくなったのだから。

ただ、岡山の山形おばさんが年に一度、お墓参りに行くそうだ。

今日は、近くの河辺で花火があるので、夕方から友達同士で集まっていった。

夜店をまわるのに夢中になっていると、突然、空に赤い大輪が開いた。

おおー。と周りから声があがった。

みんないっせいに、空を見上げた。

次々に打ち出される花火にぼくたちは見入っていた。

三郎が、ぼくの腕を引っ張った。

「あっちの土手の上で見ようぜ!」

みんなが三郎について、土手を駆け上がった。

「……………!」

ぼくは石段で擦れ違った女の人に目が止まった。

白地に朝顔の絵が入った浴衣。

その女の人は、すぐに人込みの中に消えていった。

「どうしたんだよ、アサト!」

三郎の呼ぶ声でぼくは我にかえった。

土手の河の反対側にコンビニエンスストアの白々とした明かりが見えた。

その光のかげに、あの男の子が恥ずかしそうにこっちを見上げていた。

「君…」

その時、一際大きな花火が上がり、周囲を赤く染めた。

「おお-すげー!」

誰かが歓声をあげた。

気がつくと、あの男の子の姿がなかった。

ぱらぱらと夜空に散る火の粉に、ぼくはその前をよぎる小さな影をみつけた。

そいつは、ゴム人形くらいの大きさで毛玉のような姿をした、悪戯ずきの「げじまゆ」だった。




― 完 ―