ロシアによるウクライナへの侵攻は、2022年2月24日、ロシアの核恫喝により始まった。この恫喝により、ウクライナに加担しようと参戦する国はなく、ウクライナは、物質的にも人的にもその損害は甚大を極めている。

 この戦争で明らかになったことは、核を持ってさえいれば、自国の領土を侵されることもなく、他国の領土を侵略出来るということである。ウクライナが、ソ連時代の核弾頭をロシアに引き渡す際、米英露中仏がウクライナの安全を保障し、核の傘を差し伸べていたにも関わらず、これらの国は参戦を躊躇し、侵略を阻止出来なかったのである。

さらに、核の傘は、核の抑止にもならないのではないかとの疑念が持たれている。盟主国が、同盟国にも拡大して核抑止をすると約束しても、自国が核の標的になってでも同盟国を守るとは信じ難く、核共有も大同小異、核の提供国が、自国が核の標的になってでも被提供国の使用を承認する筈もない、との疑念である。

 従って、自衛のためには、自らが核を保有するか、完全無欠なミサイル防衛システムを持つしかないようである。而して、多数のミサイルの同時発射や極超音速ミサイルを防衛するシステムが現存しない以上、核を保有しようとする国が増加することは必定である。世界の安全が一層不安定化することが危惧される。

 折しも、核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開催され、政治宣言や行動計画により核廃絶の意思を改めて明確にし、本年6月23日閉幕した。 しかし、締約国が、核保有国にいくら核廃絶を訴えても、自国の安全保障が実質的に担保されない限り、本条約に参加する筈もない。核廃絶は必ず実施されるべきではあるが、話合により、交渉により核廃絶を目指してもそれを実現させることは不可能である。今や、核廃絶どころか核拡散に向かいつつある。

 ここに、以下のような核報復シンジゲートの結成を提唱する。これは、核を無用の長物化することにより、核に対する安全保障を担保しつつ、核拡散を防ぎ、ひいては、核廃絶を実現する方策である。

 

1.          本シンジゲートは、参加国からの現金または現物の出資により成立する。

2.          それらを原資として、核を搭載する極超音速ミサイルを配備した多数の原潜を、その位置が特定されないように、世               界各地の海に航行させる。

3.          核のボタンが、参加国に2個与えられる。1個は国内配備用に、1個は不特定の海外への配備用である。それらのボタ               ンは、その国が核被爆した場合にのみ有効に作動し、例え国が全滅し、国内配備のボタンが押せなくても、その国は海               外配備のボタンを押し、被爆の倍返しの報復をしなければならない。

4.          本シンジゲートは、世界から核が全て廃棄された段階で、全資産を廃棄し解散する。

 

   これにより、核保有国は、核攻撃には必ず核報復があり被爆することを覚悟しなければならなくなる。このシンジゲートでは、世界に航行させている原潜の位置が特定されないようになっているので、如何なる国も、これを破壊することは不可能である。そして、核攻撃された国が核のボタンを押すことを止めさせる手だてもないのである。この様に、本シンジゲートは、自国で核を保有するよりも、煩雑さがなく、経済的であるので、非核保有国はもとより核保有国も挙ってこれに参加するであろう。その中でも、自衛のために核を保有していると主張している国、例えば北朝鮮のような国も、本シンジゲートへの参加により、核廃棄がし易くなり、平和条約を締結するのではないか。その可能性は、現状に比し格段と高まるのではないか。かくの如く、本シンジゲートは、核拡散を防止し、核廃絶を進展させることは確かである。

   本構想は、核が持つ威嚇力を利用するものであり、それが非人道的との誹りは免れないが、急がば回れ、毒を以て毒を制することこそが最善の道である。

                                                                                                                                                       2022年7月4日

                                                     伏見伸彌