あなたへ
最初で最後のラブレターです。
2011年、春。あなたに出会ったのはこの国自体が沈みきった春のことでした。私は節目節目にいつも飛び込んでくるニュースが全部自分のせいなんじゃないかと思っていて、それはやっぱり春を喜ぶことができなかった。思えば、いつも新しい始まりの時にはふさぎ込むようなニュースばかり目にしていたように思う。だから、その春も、あなたに出会ったけれど、私は不幸なんだと思った。
22歳になって会社に勤めることになった。大学を出た頃なんて、なんとなく世の中分かった振りをして、どこか気取っていたんだと思う。初めて出会ったのは、会社の廊下だったけれど、私はあなたを見ない振りをした。
小池さんて同期だよね?
同期に興味がなくて、いや、興味がない振りをしていて。だから急にあなたに声をかけられたことに私は驚いた。
今日飲み会いく?
その日は同期内で飲みに行く予定があった、同期なんて、飲み会なんて、どうせニコニコするだけで疲れるだけだから行きたくないと思う。ただ、私は人から嫌われるのが怖くてだからやっぱり参加してしまう。
うん。行くよ。
そう。俺遅れてくから連絡先交換しとこうよ。後でお店教えて。
新宿の町はいつも通り混雑していて、道ゆく人はいかにも他者に興味がない振りをして、そんなすました人達が怖くて、私は顔を伏せて歩いた。
お店の中はとても混み合っていて友達を見つけるのも大変だった。
いい人でいたいから、私はニコニコ人の話を聞く。世間にいたいから、当たり障りのないことを言う。どうしても抱える毒がたまにでてしまうけれど、それは柔らかくあたかも見えない形で、当たり障りなく言葉する。人と人はそんな関係の中でふかまっていくものだとおもっている。
携帯がなる。登録したあなたの名前がでてきて、私は電話にでた。
もしもしーいまどこー?
お店にいるよ?場所わかる?
分かんないんだよねえ。
場所送ろうか?
やっぱり案内小池さんに頼んでよかったわー。お願いしまーす
しっかりしているねと私は良く言われる。好きでしっかりした訳じゃない。好きでこんな自分でいる訳でもない。なるようになっただけなんだ。そんなどうでもいいことをおもってしまった。
お疲れー!お疲れー!
数分後に来たあなたは足取りも軽くニコニコ席についた。
小池さんありがとねー
いえいえ。気にしないで
あなたとの席はちょっと離れていて、私はその日何も話さなかった。
あなたが私に頼んだのは、連絡先を聞いたのは、きっとなんの理由もない。しいて言えば、私がしっかりしていると思ったから。私があなたを案内したのもなんの理由もない。私もしっかりしているから。その程度のこと。
