恐竜の絶滅、カギは小惑星の衝突時期


 およそ6600万年前、恐竜が絶滅に至った原因は、メキシコのユカタン半島に衝突した小惑星とする説が最有力視されている。一方、衝突のタイミングがずれていれば恐竜は絶滅を免れたかもしれないという研究結果が発表された。



 約6600万年前に起きた小惑星の衝突時期が数百万年ほど前後にずれていたら、
恐竜は絶滅を免れた可能性が指摘されている。

Photograph by Joel Sartore / National Geographic Creative


 小惑星の衝突が恐竜絶滅の引き金となったのは確かだが、本質的な原因は衝突とは別に存在するという。特に重要な要因として指摘されているのは、大型草食恐竜が脆弱化していたという事実だ。

 世界の主な恐竜博物館や大学に所属する専門家が名を連ねる研究論文の1著者、イギリス、エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサット(Stephen Brusatte)氏は、「衝突の時期が500万年ほど前後にずれていたら、恐竜は生き延びていたかもしれない」と話す。

 ノーベル賞物理学者のルイス・アルバレス(Luis Alvarez)を中心とする研究グループが、恐竜絶滅の原因として小惑星の衝突を初めて指摘したのは1980年に遡る。以来、絶滅にどの程度の影響を与えたかについて議論が交わされてきたが、次第に小惑星衝突こそ最大要因だという意見が大勢を占めるようになった。

 同じく著者の1人であるイギリス、バーミンガム大学の古生物学者リチャード・バトラー(Richard Butler)氏は語る。「以前とは異なり、化石や年代測定、地質調査などから、恐竜の実態を示す証拠が続々と見つかっている。絶頂期はとうに過ぎていて、遅かれ早かれ絶滅する運命にあったのではないかという考え方も可能だが、決してそうではない。小惑星の衝突がとどめを刺した事実は、これまでの証拠が示している」。

◆中枢種の多様性喪失が原因か

 恐竜の絶滅時期は、博物館でお馴染みのティラノサウルス・レックスやトリケラトプスが栄えた白亜紀後期とされる。当時、恐竜種全体の多様性はある程度保たれていたが、大型肉食恐竜の獲物だったハドロサウルスをはじめとする大型草食恐竜は事情が異なるとバトラー氏は指摘。

「個体数は十分だったが種の数が限られ、しかも互いに似たり寄ったりだった。中枢種(生態系に大きな影響を与える種)としての大型草食恐竜が多様性を失ったと仮定すれば、恐竜があっけなく滅んでしまった訳も説明できる」。バトラー氏は生態学的な分析結果を示しながら語った。

 大型草食恐竜の多様性が失われつつある中で小惑星が衝突すると、避難場所はもちろん、代わりになるエサも失われる。本来頼るべき適応特性もほとんど持ち合わせていない恐竜にとっては、非常に過酷な環境だ。

 衝突による大火災で地球は灼熱の嵐に包まれ、空に巻き上げられたチリがその後数十年にわたる気温低下を招いた。当時、全生物種の75%近くが絶滅したと考えられている。

 バーミンガム大学のバトラー氏は、「いかなる生態系においても中枢種とのつながりが絶たれると、その生物群集は不都合な事態に追い込まれる」と指摘。同氏によれば、小惑星衝突は確かに大事件だが、種の数が急速に減少した後というタイミングが悪かったという。

 そしてバトラー氏は次のように付け加えた。「歴史に仮定を持ち込んでも意味がないことはわかっているが、もし小惑星がコースを外れていたらどうなっていただろう? 全盛期の後も生き延びたとすれば、恐竜はいまも地球上を闊歩している可能性が高い。その時、われわれ人間は存在しうるだろうか?」。

 今回の研究結果は、「Biological Reviews」誌オンライン版に7月28日付けで発表された。






<ナショナルジオグラフィック 記事より>




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