ティラノサウルスの小型種、極地で発見







 大発見は小さな姿でもたらされた。古生物学者たちが掘り出したのは、アラスカ北部に生息していた、ティラノサウルスの小柄な新種だった。










ティラノサウルス




 アラスカのオーロラに照らされるナヌークサウルスを描いた想像図。





ILLUSTRATION BY KAREN CARR









ナヌークサウルス・ホグルンディ(Nanuqsaurus hoglundi)と学名を付けられた新種は、極地にすむ小型の恐竜で体長は約6メートル。近い親戚であるティラノサウルス・レックスの約半分の大きさだ。学名の最初の部分にある「ナヌーク」は、アラスカ先住民イヌピアックの言葉でホッキョクグマを意味し、白亜紀後期のティラノサウルスが現在の極地のホッキョクグマ同様、最上位の捕食者の地位にあったことを示す。ホグルンディは、慈善事業家のフォレスト・ホグランド(Forrest Hoglund)を称えて付けられた。





 2006年、古生物学者たちがアラスカのプリンスクリーク層で角竜の一種を探していた際、ナヌークサウルスは見過ごされるところだった。7000万年前の岩石を穴から取り除いているとき、古生物学者のトニー・フィオリロ(Tony Fiorillo)氏は、頭蓋骨のかけらのような見慣れない骨があるのに気が付いた。フィオリロ氏はその時には「他にもっと大事な仕事があったので、いったん忘れていた」ものの、「頭から離れないことというのはあるものだ」と話す。その後、研究所でこの骨を調べたフィオリロ氏は、新種のティラノサウルスの頭頂部と顎のかけらに間違いないとの認識に至った。





 その上、ティラノサウルスとの共通点がいくつかある中でも、頭部にある尾根のような特徴的な張り出しから、この肉食動物がティラノサウルスと近い類縁関係にあることが分かった。テキサス州ダラスのペロー自然科学博物館に勤めるフィオリロ氏は、「“おじいさんのまたいとこ”なんていう関係じゃない」と冗談を言った。





◆なぜ小柄なのか





 ティラノサウルス・レックスは間違いなく、「ベストメンバーのニューヨーク・ヤンキースでセンターを任されるのに匹敵する、恐竜界のスターだ」とフィオリロ氏は話す。一方で実際の白亜紀には、ティラノサウルスに近い種がアジアや北米に多く生息していた。





 ナヌークサウルスが生きていた時代、ララミディアと呼ばれる古代の亜大陸の一部だったアラスカ北部は、現在のワシントン州シアトルのような気候だった。冬は冷えるが、凍えるほどではない。おそらくナヌークサウルスは、雪を頂いた雄大な山々の麓にある谷を歩き回り、カモノハシ恐竜と呼ばれるハドロサウルス科の種などを含む他の恐竜たちを狩っていた。周囲には背の高いセコイアが生い茂り、海岸沿いの平地には花が咲き乱れていただろうとフィオリロ氏は語る。同氏は、ナショナル ジオグラフィック協会とウェイト財団(Waitt Foundation)から資金提供を受けている。





 しかしシアトルとは違い、北極地方はやはり厳しい土地であり、夜と昼の長さの変動が大きく、季節もはっきりしていて、餌にありつくのは簡単ではなかった。例えば、餌となる動物は夏の間に爆発的に数が増えたと考えられるが、暗い冬には激減してしまい、捕食者が食べる分はほとんど残っていなかっただろう。





 このような餌の不足がナヌークサウルスの小柄な体の理由かもしれないとフィオリロ氏は説明する。餌がわずかしかなければ、大型の動物は体を維持できないからだ。





 しかし、「生物学の一般的なルールに照らすと奇妙なことだ」と話すのは、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるカーネギー自然史博物館の著明な古生物学者マット・ラマンナ(Matt Lamanna)氏だ。多くの動物は、極地では大型化する。例えば、クマの中で最大種のホッキョクグマがそうだ。大型動物は小型動物に比べて熱を失いにくいためではないかと考えられている。





 今回の研究には関わっていなかったラマンナ氏は、「非常に驚異的な発見だ」と評価した。「現在の世界では極地の大型動物に目が行きがちだが、白亜紀の世界ではそれが当てはまらないかもしれないというのは興味深い」。





◆極地にすむふわふわの恐竜?





 また、ナヌークサウルスは他のティラノサウルスの種と同様、薄い毛で覆われていた可能性がある。さらにラマンナ氏は、「恒温動物と思われる生物が北極近くに暮らしているなら、その外皮はずっと南に暮らす親類より少々厚かったかもしれないと考えるのが自然だ」と話した。





 研究結果は、「PLOS ONE」誌オンライン版に3月12日付けで発表された。
















<ナショナルジオグラフィック 記事より>






















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