修復不能のケプラー、成果はこれから


 NASAの宇宙望遠鏡ケプラーは、太陽系の外の多数の系外惑星について、私たちのこれまでの理解をくつがえす新発見を成し遂げてきた。しかし8月15日(現地時間)、NASAはケプラーが故障しており修復は不可能だと発表した。


音史のブログ-ケプラー
 NASAの宇宙望遠鏡ケプラーのイラスト。

Illustration by Detlev van Ravenswaay, Picture Press/Getty Images


 NASAはこの日、ケプラーミッションのうち観測の段階は終了したと報告した。画像収集の際の姿勢制御には、4つあるリアクションホイールのうち少なくとも3つが正常に動作する必要があるが、2つが故障して修復は不可能であると判断された。

 ケプラーは今年5月に正常に動作しなくなった。NASAのエンジニアらはそれ以降、問題の解決を試みていたが成功しなかった。さまざまな技術試験を行った結果、故障した2つのホイールのうち一方でも「修復できるとは考えられない」とNASAの天文物理学部門を率いるポール・ヘルツ(Paul Hertz)氏は言う。

 ヘルツ氏によれば、ケプラーチームは現在、この宇宙望遠鏡とこれを搭載した人工衛星を、ほかの調査に転用できないか検証しているという。こうした可能性は、問題が明らかになった当初から提案されていた。具体的には、小惑星や彗星、超新星、銀河系内の大型惑星などの調査が検討されている。

 天の川銀河の一領域を対象に、軌道をめぐる複数の惑星について情報を収集するという当初のミッションは、今や終わりを迎えようとしている。ただし、これまでに集まったデータの分析には向こう3~4年かかる見通しで、素晴らしい成果が期待できるとミッションの主任研究員を務めるウィリアム・ボルッキー(William Borucki)氏は言う。

「ケプラーミッションは決して終わったわけではない。一番ワクワクする発見はこれから数年のうちに訪れるだろう」とボルッキー氏は言う。

◆系外惑星の検出

 ケプラーは2009年に打ち上げられ、太陽系外の惑星についての天文学界の理解を変えてきた。たとえば、私たちの太陽系がありふれた存在だと証明されたのもケプラーの功績だ。天の川銀河には3000億ほどの恒星が存在するが、現在ではさらに多くの惑星がこれらの周囲を回っていると考えられるようになった。

 ケプラーの主目的は、天の川銀河の一領域において、太陽に似た恒星を周回する、地球に似た惑星がどのくらいあるかを確認することだった。これを元に、宇宙全体でのこうした惑星の数も割り出せるはずだ。

 ケプラーはこれまでに135の惑星を検出し、さらに候補の天体を3500以上も見つけている。系外惑星がその主星である恒星の手前をトランジット(通過)する際は、その恒星の明るさがわずかに減少するはずだという理解が、検出作業の前提となっている。つまり、恒星の明るさが定期的に減少していれば、その恒星を周回する惑星があると考えられるのだ。

 現時点では、太陽に似た恒星のハビタブル(生命居住可能)ゾーン内に、完全に地球に似た惑星は見つかっていないとボルッキー氏は言う。ハビタブルゾーンとは、恒星の周囲で液体の水が存在可能な領域を指す。液体でなくなる時期があるとしても、常に凍っているとか沸騰しているとかではないことが条件だ。

 ただし、ケプラーの運用方法の関係で、こういった地球のような惑星を見つけるには、可能性のある恒星とその周囲を回る惑星とを、3~4年にわたって観測したデータが必要になる。

 ケプラーミッションは丸4年を超えて継続できたので、地球に似た惑星があるなら見つけられるだけのデータは収集できているはずだとボルッキー氏は言う。

 ケプラーの後継として、トランジット系外惑星探索衛星(TESS)の打ち上げが2017年に予定されている。ケプラーの観測範囲が太陽系から3000光年離れていたのに対し、TESSはより近くの大型で明るい惑星を探索する。

◆データの“海”

 謎に満ちた系外惑星の世界を探索する上で、ケプラーは決して唯一のミッションではなかった。地上の望遠鏡を使ったチームも多数存在する。

 ケプラーには打ち上げ当初、金属製のリアクションホイールが4つ付いていた。これらのモーターが一方を向いているとき、人工衛星全体が他方に動くという仕組みだ。衛星の姿勢を制御するには、このうち少なくとも3つが動いている必要がある。2012年に、すでに1つが不具合を起こしていた。

 そのため、今年5月に2つ目のホイールが「セーフモード」に移行したときのエンジニアらの見解は、元通りホイール3つでの運用に戻せると楽観視はできないというものだった。ホイール2つになったケプラーの運用を続けるかどうかは、今後新たな利用の可能性を分析し、必要なコストを算出してから、NASAの上層部が最終決定するという。

 15日にこの件でテレカンファレンスが行われた。ケプラーミッションの観測段階が終了したことを残念に思うかと聞かれたボルッキー氏は、「心残りはある」ものの、系外惑星に関する理解を深める上で「このミッションが達成したことに対する満足」の方がはるかに大きいと語った。

 ケプラー以前の状況は、たとえて言うなら海の底にいて頭上がどうなっているか何も知らないようなものだったとボルッキー氏は言う。だが「今や、データの“海”があり、それを精査すればよい」。






<ナショナルジオグラフィック 記事より>