アンモニアの危険性、米で肥料工場爆発


 テキサス州ウェストで現地時間4月17日、この町にある肥料工場が爆発、死者を出す惨事となった。この工場では揮発性が高く、取り扱いを誤ると危険な窒素化合物、無水アンモニアが肥料の原料として製造、貯蔵されていた。


音史のブログ-肥料工場爆発
 テキサス州ウェーコ近郊の肥料工場で現地時間4月17日夜に爆発が発生した。
工場は大破して瓦礫の山と化し、負傷者は100人以上に達した。

Photograph by Mike Stone, Reuters





 無水アンモニアは窒素原子1つ、水素原子3つからなる分子で、常温では気体で存在する。ミシガン州立大学(MSU)の土壌学者カート・スタインク(Kurt Steinke)氏によると、多くの肥料工場ではさまざまな種類の肥料を生産する原料として、無水アンモニアを製造、あるいは使用しているという。

「硝酸や硫酸などの化合物、さらには大気中の二酸化炭素などを無水アンモニアと結合させることで、現在使われているさまざまな肥料が生産できる」とスタインク氏は説明する。

 無水アンモニア(単に「アンモニア」と呼ばれることも多い)は安価に生産可能で、これだけでも非常に効果の高い肥料となる。しかしその製造には高温を要し、保存時には高圧をかけておかなければならない。

「農業用途の場合、無水アンモニアは高圧で液体化されており、この圧力を保った状態で専用に設計されたタンクで保存する必要がある。タンク周辺の気温が上昇すると、蓄えられた液体アンモニアの温度も上がり、液体が膨張してタンクの内圧が高まる。このアンモニアタンクに漏れがあった場合(中略)、液体アンモニアは急速に気化し、人体に触れると体内の水分とすぐに結合、強烈な脱水症状や化学やけどを引き起こす」(スタインク氏)。

◆テキサス州の爆発、事件か事故かは不明

 各種の報道によると、爆発が起きたテキサス州ウェストの肥料工場は学校や住宅にも近い場所に建っており、2007年の時点で25トン弱のアンモニアを貯蔵していたことがわかっている。

 テキサス州の規制当局が2006年に提出し、「Dallas Morning News」紙が今回の事故をきっかけに再調査した報告書には、この工場に貯蔵されている肥料には火災や爆発の危険はないとの記述があった。この報告書が想定していた最悪のシナリオは気体のアンモニアが10分間にわたって放出されるケースで、この場合も死者やケガ人は出ないとされていた。

 しかし、現地時間4月17日の午後7時50分ごろに発生した今回の爆発事故は、この想定を上回った。死亡者(死者数の最終確認はとれていない)を出しただけでなく、負傷者も100人以上に達し、目撃者からは爆発を「核爆弾」に例える声も聞かれたほどだった。

 この爆発で工場の周囲4ブロック相当の地域が壊滅的な被害を受け、その衝撃は80キロ離れた地点でも地面が揺れるのがわかるほどだったという。この爆発の根本的な原因はいまだ調査中だ。

 現場の近郊にあるウェーコ警察本部に所属する巡査部長ウィリアム・パトリック・スワントン(William Patrick Swanton)氏の話としてABCニュースが伝えたところによると、工場の火災とそれに続く爆発が事故なのか、それとも何者が故意に引き起こしたものなのかは、当局もまだ確認できていないという。

「犯罪行為があったと示唆するわけではないが、真相はわかっていない。これが工場内の偶発的な事故だったとはっきりするまでは、犯罪現場に準じた扱いをするということだ」(スワントン氏)。

◆過去にもあったアンモニア関連の事件・事故

 これまでにも無水アンモニアや化学組成が近い硝酸アンモニウムが関係する死亡事故は多数発生しており、17日に起きた爆発はその最新の例となる。

「The Guardian」紙によると、同種の化合物が過失により爆発して死者が出た事例は、1921年以降で少なくとも17件が記録されているという。同紙の記事によれば、なかでも最も死者が多かったのが、1947年にテキサスシティの港で発生した貨物船の爆発事故で、少なくとも550人が死亡、負傷者は 3500人に達した。これは今でもアメリカ史上最悪の産業事故だと、ニュースサイト「Salon.com」は伝えている。

 1994年には、硝酸アンモニウムを使用した爆弾でオクラホマシティにある連邦政府ビルが爆破され、168人が死亡する事件があった。この事件を受けて、米国における硝酸アンモニウムの販売は現在厳しく規制されており、農業用途での使用も激減した。

「1990年代に起きたオクラホマシティの爆破事件以降、硝酸アンモニウムの生産はほぼストップし、現在は作られてない。容易に入手できるものではなくなった」と、ミシガン州立大学のスタインク氏も述べている。




<ナショナルジオグラフィック 記事より>