「我が眠りを覚ませし者、貴様、アークスか。」
白銀色の艶やかな毛並み。
暗闇の中でも発行する鋭い瞳。
数えきれないほどの生物を切り裂いたであろう赤く色づいた爪。
何年、何十年、何百年生きているのだろう。
その身体は訪問者の何倍も大きく、氷山を削ってできた洞窟に窮屈そうに収まっていた。
「そう。私はイア。アークスよ。」
そんな怪物を目の前にしても物怖じせず、淡々と少女は答えた。
「あなたの身体に宿したフォトン、そしてなんでもいいわ。遺伝子情報を抜き出せるものを頂きに来たの。」
怪物は少女を睨みつけた。
鋭い眼光は少女を射抜くも屈強な身体に戦慄は覗えなかった。
少女の身体はメタリックホワイトのパーツでできていた。
「キャストの娘。我が力を何故求める。」
少女は氷の床に腰を下ろし、戦意がないことを示した。
携えていた武器もしまい、生身で怪物の視線を受ける。
怪物を口元を緩めた。
「私に執事がいるんだけどさ。そいつニューマンなんだけどフォトンの扱い下手くそなの。
だから、前線で私と一緒に戦ってもらおうと思ってさ。あ、私研究者なの。これでも。それで、あなたの力と、あのこのフォトンと遺伝子を合成しようと思ったわけ。身の回りの世話をするだけの執事なんてつまらないじゃない?ねぇ、ふぇりる。」
怪物はもうひとつの気配に視線を移した。
彼女の一歩後ろに佇み目の前の怪物よりも彼女の身を案じるようにその身体にはやや警戒の意思が垣間見える。
ふぇりると呼ばれた少年は名を呼ばれ静かにうなずいた。
「日々の鍛練は怠っていませんがね。それとフォトンは人並みには扱えます。」
「人並みじゃだめよ。人並み以上、それ以上。私の研究に協力するって言ったじゃない。」
どうやらこの青年がその執事とやららしい。
ニューマンはキャストと違い屈強な身体をまとっていない。
の分喰らいやすくヒューマンと違ってフォトンの扱いに長けているためやや美味である。
怪物がひとつ頭を動かせば一飲みにできる距離にいるふたり。
しかし怪物はそのふたりを喰おうとはしなかった。
邪な思考は読み取れない。
彼らをまとうフォトンは純粋な力を求めている。
「どう?フェンリル。このことあなたの一部でいいわ。ひとつになってくれないかな。」
怪物の正体はフェンリル。
今や伝説とされている、神話としても語られている獣の怪物。
フェンリル自信は知っていた。
自分が伝説の生き物とされていること。
しかし興味はなかった。
何百年と生きていると自分がもはや何者であるかどうでもよくなった。
偉業よりも人や町を襲い喰らった伝説を語られていることも知っている。
事実。
フェンリルは多くの街を、人を喰らった。
自らに備わった次元を行き来する能力も使い幾何もの惑星に渡りさまざまなものを食い尽くした。
いつしか身体はひとつの氷山に身体を丸めねば収まらないほど大きくなっていた。
それはフェンリルに食われた億数の生物や施設が彼の一部として取り込まれことによるものであろう。
「どのようにして我がここに眠ることを知ったのかは問わぬ。力を求める理由もわかった。だがしかし、我がそう簡単にこの力を他人に渡すと思ったか?」