「ああ…僕は子供だった…。
音楽で成功できるだけの才能がないってことがわかったのに、ましてや他のことは何をやっても駄目な俺だから…。
だから、もうこれ以上生きていても意味がないと思った…俺は弱かった…弱かった…」
なぜ、そんなに自分を弱いと思ったの?
「彼女(Tさん)はとても強い人だった。
僕が些細なことで落ち込んだりして、同じところをグルグルと回っているのに、彼女は、自分自身の弱さをバネにして、上にどんどん上がっていっているような気がした…。
彼女はとても強い人間だって思った…。
(実際Sさんは生前、Tさんに対し、あなたは強い人だ、と何度も言っていたそうです)
僕のような弱い人間が彼女のそばにまとわりついて、いつまでも離れないでいるというのは、彼女の足かせになると思った…・
そんな二人の関係を、早く終わらせたほうがいいと思った…」
あんた、そんなこと言ってるけどね…おかげで彼女は、あなたが自殺したという、とても深い心の傷を一生背負い込むことになったじゃないですか!? 甘えるのもいい加減にしなさいよ!!
(またしてもSさんに説教してしまったムンクさん)
「そう…いつも彼女に甘えてしまっていた、俺は弱い男…。
自殺したのも、彼女へのあてつけだった…」
あてつけで自殺したの?
「そう…」
あんたさあ、どうしょうもなくお子ちゃまで甘えん坊だね!?
(つい激怒してしまったムンクさん)
「そう…僕は弱い人間…。
僕の“思い出”というか、僕が存在したということを、彼女の心に刻み込んでやりたかった…」
ええ、おかげで彼女は、とても深い傷を心に背負っていますよ。自分勝手で、どうしょうもない男だね、あんたは!
(ますます怒りに火がついたムンクさん)
「そうしてやりたかった…だってあてつけだから…」
なんでそんな“あてつけ”をしたの?
「もっと“キレイな形”で、僕のほうから離れていったら…彼女は僕のことなんてすぐ忘れてしまうだろう…。彼女はそのくらい、強くて魅力的な人…
僕なんかと一緒にいるのはふさわしくない…と思っていた…。
なぜ僕なんかにいろいろ世話を焼いてくれて、僕を支えてくれようとしているのかがわからなかった…。
彼女は僕の才能をずっと信じてくれていて、彼女だけが本当の僕の味方だった…。
僕自身がとっくに自分の才能を信じられなくなっているっていうのに、彼女だけが、僕の才能を信じて応援してくれる…。そして僕の将来というものを信じてくれた…。
それが逆に重荷だった…つらかった…。
彼女の前では強がっていたけど、自分にはプロのミュージシャンとしてやっていく才能がないことはとっくにわかっていた…。
それでも、それを認めたくない僕自身がいて、もがき苦しみながら、精一杯がんばった…そして強がっていた…。
だけど、自分が思い描いていた夢は、叶わないしはかないものだって気づいたとき、何より、僕以上に彼女のほうが僕の才能を信じて応援してくれることが重荷になった…。
僕は音楽以外のことは何をやっても駄目な人間なのに、その音楽の才能ということにも限界を感じた…
自分には才能がないとわかってしまった…それを自分で認めるのがつらかったし、何よりそれを彼女にも認めてもらうというのがつらかった…。
ある日彼女と口論した時、何もかも、彼女に否定されたような気がした…。だからあてつけに死のうと思った…僕は弱い人間だから…」
だからってさあ、そうやって、ずっとそこにいるの?
「僕は縛られているから…ここから動くことができない…」
そう彼が言うので、彼の首に巻かれているヒモを解いて差し上げました…。
ここで、彼のガイドの巫女さんが、神楽のような音楽を演奏しました…。神社で結婚式を挙げるときに、よく流れる音楽ですね…。
この音楽が、彼にとっては、とても荘厳で、ものすごいエネルギーを持つ音楽のように感じられたようです…。
(その6に続く)
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