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スケベ


 すっかり話し込んでしまった。
 周りの状況がおろそかになるほど。ガラスの破片が散らばる教室に射す夕日の光は勢いを失い、青い月光に取って代わられている。

 綺麗だ。

 声に出しては言えない。
 頬に血が付いている。痣があって痛々しく腫れている。でも、それが他の誰でもない自分のためであることを知っている。だからそれがたまらなく愛しく思える。

「ねえ。ぼうっとしてどーしたの?」

 とろんとした目つきで美月が話しかけてくる。
 彼女の息遣いに、自分の鼓動が重なるよう。頭が熱を持って夜風が冷たい。きっと僕の顔は紅いのだろう。それをきっと君は、気づいていて言わないのだろう。
 まるで、こっちを試しているみたいだ。

 君の笑顔がそよいで、時間が途方もなく長くて短く感じられる。

「いや、な、なんでもないよ」

 君は、本当を知っている。君は、俺のことを好きと言った。だから、俺がそれを打ち明けても、君は笑うんだろう。
 だけど、それを口に出すことをしなかった。 
 それで時間を止めることができると思ったんだ。

「そういえば、木枯くんの友達は?」

 だけど時間は流れて、君は話題を変えた。
 ふたりきりの変わり果てた教室。泣きじゃくっていた小さな少女はむせ返りながら、とぼとぼと去っていた。その背中を追いかけるようにして日秀は消えた。

「――スケベね」

 君は膨れてそう言う。
 事実、彼はそうだろう。いつもクラスメイトの女子にちょっかいを出している。でも、今回はそれだけじゃない気がする。

『あの魔女のところに戻るのか。あの魔女は、街田さんを利用しているだけだよ』

 街田にかけたあの言葉は、的を得ていた。あのとんがり帽子の魔女が、街田を真剣に救おうだなんて殊勝なことをするはずがない。そんなことは、街田自身が一番分かっている。
 だけどだからこそ、彼女にはとんでもなく残酷だったはず。ーーそれをわざわざ言うなんて。俺達がさじを投げた、彼女を救う術を、彼は知っているとでもいうのだろうか。

*****

 ぼろぼろになるまで泣きつかれた少女は、廊下をふらふらと。その足取りは、酔っ払いの千鳥足よりも危なっかしい。壁に倒れかかり、胸元の制服のリボンをひっつかんで肩を上下させて。過呼吸を抑え込もうとするが、あえなくその場に蹲り、崩れ落ちてしまう。

 やっぱり自分は無力だ。

 そう痛感するたびに、自身を呪い殺したくなる。

 もっと、早く気づいていれば、もっと早く。そうすれば、私はお父さんのために死んであげられたのに。

 もっと早く……?
 気づいていたんじゃないの? とっくに?
 結局、死ぬのが怖いから。
 あたしは、甘えていたんだ。
 お父さんが、私を命を賭して救っていたことを口実にして。
 自分が、お父さんを、殺していい理由にしてたんだ。
 今更になって、それを反省して、いや、反省したつもりになって、それで自分が、自分がキレイでいられる? 汚れないでいられる? あはは。
 あはは、あはは。なんて、あたしは浅ましいんだろう。

 そんな自責の言葉の群れが、脳裏を埋め尽くす。
 何も聞こえない。
 リノリウムの床に散らばるガラスやコンクリートの破片が身体に食い込んでいるけれど、痛覚が馬鹿になっている。いや、外傷という外因が、この忌々しい自分を殺してくれることに期待しているのかも知れない。そうすれば、楽になれるから。

「大丈夫か?」

 立てない。立ち上がれない。
 意識が遠い。視界がかすんで、耳も遠い。鼻も利かない。このまま五感とともに自分の魂は消え失せるのかと思っていた。
 けれど、その優しい声だけは、なぜか聞こえた。

「……立てそうにないな」

 青冷めた街田の頬に、少年は触れた。
 それで何かのスイッチが入ったように、街田は身体の力を振り絞って少年の手を振り払った。日秀晃ひびり あきら。労うような態度を何度か向けられたが、それで信用したわけなんかじゃない。

「気安く触らないでっ」

 なぜだか呂律の回ったはっきりとした声が出た。
 日秀も、息も絶え絶えに弱弱しかった少女に手を振り払われ、メガネの奥で眼を見開いている。

「――ご、ごめん。立てるか?」

 立てるわよ。見くびらないで。

 心の中でそう呟く。

 心底ムカつくやつ。
 自分から、「友達になる」だなんて。無責任で物好きな言葉を吐いて、あたしに言い寄るなんて。誰があんたの力なんか借りるか。

 悔しさに力を振り絞り、がくがくと身体を震わせて。
 立ち上がれはしたけれど、10秒もそれを保つことができなかった。

「おっと」

 結局、倒れそうになったところを日秀が身体を支えてくれた。

「な……なんで、あんたの助けなんか借りなくちゃいけないのよっ」
「今すぐここで下ろして、放って帰ってもいいんだぞ」
「だったらそうしなさいよ」
「――いや、しない」

 街田とそんな言い争いをしながら、ふらふらと日秀は歩みを進める。街田はほとんど、日秀に体重を預け、歩かされている状態だった。

「下ろしなさいよ。重いでしょ」
「へっ、お前みたいな貧相な身体重くねえよ。少しは肉つけろ」

 とそこで、日秀の足元がすくわれて、崩れたところを今度は腕を掴まれて、一本背負いの格好で床に叩きつけられた。

「このセクハラっ! このスケベっ!」
「――お前、元気じゃねえか」

「うっさい! た、助けてなんて頼んだ覚えないわよっ!」

 床に落ちた眼鏡を拾い、掛けなおす日秀。制服についたほこりを手で払い落し、立ち上がる。

「もう、歩けるか。ひとりで帰れるか」
「なんで、そんなに心配すんのよ……」

「――放っておけないよ」
「どうしてっ!!!!」

 理解できない。どうして、こいつは自分にこうも構ってくるのか。胸のあたりがむず痒くて、痛痒くて。

「昔、友達を放っておいて死なせたことがある」

 日秀の顔が曇った。

「父さんが、ずっと家でひとりだった俺にくれたんだ。ジャンガリアンハムスターのハムじろっ」
「ハムスターかいいいいいいっ!!」

 街田は思いっきり、日秀の顔を引っぱたいた。

 調子が狂う。こいつと話していると。

「いってぇ……」
「あたしをハムスターなんかと一緒にすんなっ! そんなのどうせ、数年くらいの短い命で。とっとこしてるだけじゃないっ! 嫌いなのよ! あんたみたいな平和なやつ大っ嫌いだっ! 自分が明日死ぬかもとか、考えたこともないくせにっ! お父さんに、感謝なんかこれっぽっちもしてないくせに! あたしの方が、あんたなんかより生きることにずっと必死なのよ! それを、平和なあんたにとやかく言われる筋合いはないわっ! 分かったら、さっさと帰って! 帰ってよっ!!」

 今度は、日秀の掌が、街田の頬をぺちっと打った。
 手加減したかのような間の抜けた音だ。

「命が永いことに価値があるのかよ。お前は永く生きたいだけで、生きてるのかよっ。もし、お前が……、数年の寿命だから、感情や知能が発達していないから。そんな理由で、俺の友達を蔑ろにし、お前が俺の助けを拒むというなら、――俺は、お前を軽蔑するっ!」

「命に上下があるなんて考え方していて、幸せになれるかよっ。上が眩しいのを下を見下して補うのか。自分が下だと上に向かって叫び続けるだけかっ。そんな寂しい生き方をしろって、お前のお父さんは言ったのかっ!」

「やめてえええええっ!」

 街田の喉から、大筒を鳴らすような雄たけびが放たれた。
 叫びに力を使いすぎ、自重を支えきれなくなった身体は再び地面に崩れ落ちる。

「――っ。は、はぁ、は。はぁ……。……。だ、……は……。だまれ。だまって……。お願いっ」

「……、……」

 街田は、肩で息をして弱弱しく蹲って震えるだけの状態に戻ってしまった。その様子を日秀は静かに見下ろし、街田が希った通りに黙っていた。
 手の甲に筋を浮き上がらせて、身体が痙攣するほどに力を入れるけれど。重たい身体は一向に持ち上がる気配を見せない。やがて、歯を食いしばっていた口元を緩めて、ぽかんと半開きにした。

 そして、手を挙げた。

「……。……」

「あるけない」

「えっ」

「あるけないって、いってるの。――たすけて」

「……、……」

「はやく」

 そこで日秀は頷いて、街田の右の脇の下に潜り込んで、身体を持ち上げた。

「最初から、素直にこうすればいいだろ」
「……、りようしただけ。おうちにかえれないのはいやだから」

「可愛げがないな、お前って。ハムスターとはえらい違いだ」
「……、いみわかんない」

「なんか言ったか」
「いいえ」

 ふらふらとおぼつかない足取りで、ふたりは夜闇に染まりゆく廊下を歩いていく。ようやく、床に散らばっていた瓦礫や破片は目立たなくなり、足場も安定してきた。だけど、傷だらけのふたりではゆっくりと歩くのがやっとだ。

「階段、いけそうか」
「ばか。エレベーターつかいなさいよ」

『あのコ、可哀そうでしょ? だから、あたしが友達になってあげるの』
『でも、あのコ。陽の光が浴びれないなんて。一緒にいると、陰気になっちゃうよ……』
『あたしをあんな、陰気なコと一緒にしないでっ。あたしはね、ひょうかが下がるのが嫌なのっ。別に、あんな陰気なやつが好きなわけじゃないわっ』

 眠い。街田は眼を閉じて、日秀の暖かい背中の温度を感じながら、冷たい過去を思い返していた。

「……あり……とぅ……」

 街田の口から漏れ出たその言葉は、やけに静かな校舎の中でエレベーターの音にかき消されてしまった。日秀がなんとも反応していないことから、街田は自分の世迷言が利かれていないことを悟った。そして、二度と言い直さなかった。

 お似合いだと思った。
 ここでこいつに何のお礼も言えないでいるのが、自分にはお似合いだ。

 スケベ。

 自分にとって、こいつはそれでいい。

 

 


<おまけSSその77>
~魔法講座その3 「禁制魔法」について~

宿木「ようし、それじゃあ今回は、この小説の革新といえる禁制魔法について説明しよう」

テーマ3:禁制魔法とは?

宿木「まずは、忘れん坊さんのために復習をしておこう」

・如何なる魔法も、完全なる命を創造してはならない。死者の蘇生もこれに準ず。
・如何なる魔法をして、事実や過去の事象を改変並びに消去してはならない。
・如何なる魔法も、時の理を乱すために使うことなかれ。

宿木「これが何でもできてしまう魔法が、世界の秩序を乱さないために選定された決まりだそうだ。――だけど、果たして本当にそうなのかねえ。出来なかっただけの魔法を、やってはいけないと、誰かが別の言葉で置き換えただけかもしれない。例えば、そう――どうにもならない、やりきれない未練から、神に反抗しようとした誰かさん。誰も攻めることができず、世の不条理や理不尽さにしか憎しみを抱けなかった誰かさん。全能の魔法使いと言われながら、自分の娘さえ生き返せなかった誰かさん」

宿木「さあ、いったい誰でしょうねえ」

<おまけSSその78>
~CP講座その1 女×男について~

三井名「よし! 今回は満を持してこのテーマで行くわよっ! この小説で出てくる男と女の所謂ノマカプについて解説するわっ。まずは、この小説ノマカプと言えば、桂木美月×木枯唯ね。美月は少しクールすぎて感情に乏しいところがあるけれど、なんだか、裏の性格もあるようで。裏の性格は、感情豊かだけどちょっとワガママ。そして唯は、クールな美月には押されっぱなしで裏の性格には振り回されるけれど、人間味のある裏の性格に惹かれているみたいね。そしてもう一つ忘れてはいけないのが、今回の話で取り上げられた街田涙×日秀晃ね! 本当、これからどう進展するのか見ものだわっ!」

~CP講座その2 女×女について~

三井名「続いては女の子同士のカップリングね。この小説ではあまり扱われていないんだけれど……。あ、でも、あたし明日華とならどうなってもいいというか、むしろイケないことをいっぱいしてあげたくなっちゃうのよね。あの宝石みたいな瞳とサラッサラヘアーはマジで罪だわ。ほんと、見とれて魅入っちゃうもの」

~CP講座その3 男×男について~

三井名「さ、さあ……つ、ついに行くわよっ! あ、興奮してきたーっ! あたしにとってはこっちの方が断然萌えるものっ! あたしの中ではこっちこそ、真のカップリングよ! 行くわよ! あたしの一押しカップリングは、木枯唯×日秀っ」

安奈「なにしとんじゃああああああっ!」
三井名「げっ」

安奈「なに、おまけコーナー乗っ取ってCP解説してるのよ。本来は、魔法講座だったはずでしょうが!」
三井名「い、いやそのネタが今回思いつかなかったから」
安奈「だまらっしゃいっ!」