勝手に伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎さんのファンです。伊坂さんの本の謎解きをしていきます。

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D-10「PK」の10の謎のその10 
一体、「PK」「超人」「密使」の三つの物語はどうつながるのか?

 

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これについては正直わかりませんでした。以下は大森望さんの「解説」を読んで初めてわかったことです。p.249にこうある。

 両者は(「PK」「超人」)背景となる世界が微妙に違う。「PK」では二〇〇二年のサッカーW杯がフランスで行われる(ことになっている)のに対し、「超人」のほうでは、この年(ぼくらが知る歴史の通り)日韓W杯が開かれている。

私はここを見逃していました。さらに、p.255にこうある。

 この時点ではじめて、「PK」と「密使」に出てきたゴキブリのエピソードの意味が明らかになる。「大臣」の父親はむかし浮気していたことがあり、ある日、その相手から自宅に電話がかかってきた。ところがそのときゴキブリが出現したため、妻(「大臣」の母親)が二階に避難していてことなきを得た―というのが、「PK」の世界。
 一方、ゴキブリが現れなかったので(「時間スリ」に盗まれてしまったので)妻が電話に出て大騒ぎになった―というのが「超人」の世界。


ここも私は見逃していました。さらにp.256にこうある。

 「密使」で描かれていることが現実だとすれば、「PK」は最終的に実現しなかった世界ということになり、「作家」パートの年代設定の謎も、市川の地下施設でシミュレートされている仮想的な歴史の一つだと考えれば一応は納得できる。あるいは、ゴキブリ計画が成功したのが「PK」世界、時間スリ計画が成功したのが「超人」世界と考えてもいい。

何というすばらしい解釈!あらためて読み直すと、発見した。p.210です。

「我々が送り込んだ密使により、世界の流れが変化します。つまり、送ると同時に世界Aの状況は一変します。たとえばある人間が、今よりお金持ちになったり、もしくは罹るべき病気から逃れられたりすることがあります。これが、『良い変化』です、次に、本来、結婚していたはずの男性が未婚のままであったり、当たっていた宝くじが外れていたりする可能性があります。これが、『悪い変化』です」
「たとえば、ワールドカップやオリンピックの開催地が替わっちゃうようなこともあるんですかね」
 青木豊計測技師長はうなずく。「それにより、さまざまな人生に変化が起きる可能性もありますが、開催地が替わること自体は、『良い変化』とも『悪い変化』とも言えません」
「ホームの人にとっては、『良い変化』だけれど」
「そうです」


ということで、「二〇〇二年のサッカーW杯がフランスで行われる」という「PK」は、青木豊計測技師長の「ゴキブリを過去に送り込んで最初のドミノとする作戦」が成功した世界ですね。しかし、この「PK」の世界は、現実とは違っていますね。ということは、「PK」は、青木豊計測技師長たちのグループのシミュレーションの世界になります。ここで一つの謎が解けたような気がします。p.73にこうあります。

「PKのチャンスが訪れたら、外してください」
(略)
 小津は笑うほかなかった。「なぜPKを失敗しなくちゃいけないんだ」
 冗談にしては縁起が悪く、不謹慎にも感じられた。それ以降、男は何度か、小津の前に現れた。
 当然ながら、頭に浮かんだのは、八百長の依頼、との疑念だった。が、男はそれを否定した。「負けろ、とお願いしているのではありません。ドリブルからシュートを放ち、点数を取ることは問題ありません。パスを繋いで誰かがゴールを決めたりする分には、こちらは気に留めません。勝利し、みなで喜び合うことも自由にできます」


ここはずっと引っかかっていました。なぜ、勝利してもいい、シュートを入れてもいい、ただPKだけを外せ、という要求が意味を成さないと思えて仕方がなかったのです。ここで、推理しました。
1.青木チームのゴキブリ作戦は失敗した。
2.しかし、青木チームはめげずに、第二のゴキブリを過去に送った。それは、一見成功した、かに見えた。二〇〇二年のワールドカップの開催地が変更になるという変化はあった
3.しかし、その第二のゴキブリは「特別に育てられ、遺伝子操作を行って、選抜された一匹(p.227)」ではなかったので、途中でドミノが止まってしまった。
4.あわてた青木チームは、途中で止まったドミノの連鎖を再開するために、二〇〇一年に、秘密チームを送り、小津を脅迫した。

p.75にこうあります。

「いったい何の理由があって。何のメリットがあって、こんな風に命令してくるんだ」
「そういうことになっているんです」
(略)
「従っていただけない場合は、大変なことになります。あなたも、あなたのまわりも。どこかで大きな災害を起きることもあるかもしれません」
 さすがに小津は笑った。PKを決めたら、それがスイッチとなり、大地が揺れ、地割れが起きる、といった漫画で描かれるような連鎖の光景を、頭に描いた。何のドミノなのだ。


そう。ここで青木チームは、人類のために小津を脅迫しているのだ。本当のことを言っても、信じてもらえないから脅すしかなかった。

ここでわかったのは、青木チームも実は「未来人」だということだ。しかし、「僕」に接触してきた「未来人」よりは、現代に近いのも確かなことだ。

こういう青木チームの懸命の努力にもかかわらず、計画は失敗する。ここで、気づいた。大森さんがp.256で言っていたのはこういう意味だったのだ。

 要するに、歴史改変のための二種類の方法(ふたつの勢力)が存在し、それぞれ過去を変えようとしているわけだから、「PK」と「超人」は、そうした「未来からの介入」にどう立ち向かうかを描いた小説だと読むこともできる。
 実際、「超人」で毬夫に送られてくるメールは、毬夫の予知能力と考えるより、歴史を動かそうとする未来人の試みのひとつと考えるほうが(SF読者的には)しっくりくるし、「大臣」に偽証を強要したり、「作家」に改稿を促したりする謎の勢力も、未来からの干渉ぽい。


まいった。あの「PK」において、「大臣」や「作家」を脅したのも未来人で、ドミノを連鎖させるための行動だったのだ。「人類のための脅し」を「勇気」をもって拒否した結果、危険は去らなかったのだ。何と皮肉な、また何と奥の深い物語なのか。
 そして、「超人」において、今度はもっと未来の「未来人」たちが直接介入する。それが、「スーパーマン」であったり、プログラムされた「毬夫」であったりした。しかし、その方法よりもっと確実な方法に「未来人」は気づく。それが、「密使」の「僕」を利用する方法だ。だから、もう「大臣」を殺す必要はなくなり、毬夫に計画変更のメールを送ったのだ。そして、最後に「僕」の活躍により、耐性菌の蔓延を防ぐ抗生物質の製造に成功する。

この三部作は、ヒーローたちの物語である。中には有名人もいるが、多くは無名人で、それぞれが自分しか知らない(自分でも気づかないものもいる)物語である。ウイズダム英和辞典でPKを引くと、意味が3つあった。
1.penalty kick
2.psychokinesis
3.personal knowledge
 そう、この題名のPKはpersonal knowledge「個人だけが知っている知識」でもあったのですね。伊坂さんに脱帽。
(終了)