社会人大学院生時代に、当時の指導教官から「千本ノック」と呼ばれる、厳しい指導を受けました。
具体的には、自分自身が書き上げたレポートに基づいて、自分が目指したいこと、それを実現するための方策を端的に述べて、そのアプローチが論理的に正しく、合理的であることをプレゼンテーションするものの、それを他者から多角的な視点で「ダメ出し」をされるというものです。
社会学者マートンが「訓練された無能力」という言葉で、日々従っている思考や規律に束縛され、状況の変化に柔軟に対応できぬよう官僚制組織の組織文化に染まってしまう現象を説明しましたが、当時、小役人歴10年にも満たなかった私も、その傾向に陥りつつありました。
そんな「訓練された無能力」状態から脱するためには、有能化(=スキル開発)できるよう、きちんとトレーニングをこなすことが大事で、無意識のうちに「訓練された無能力」に陥りつつあった私を、その転落危機から救ってくれたのが、千本ノックでした。
仕事のクオリティを上げるために、部下に対して、日々、部下に対して千本ノックをしていますが、千本ノックをされている部下が、この千本ノックの意味や重要性を理解しなければ、単なるパワハラになってしまいます。
それを回避するためには、きちんとコミュニケーションを図りながら、目標を設定して、スキル開発の支援をしていくことが大事だと思います。
具体的に、どんなメッセージを発信しているかと言えば、次のような内容になります。
今日は厳しいことを言ったが、気が抜けてるぞ。担当として、今回の委員会の準備をして終わりではなく、今回の委員会を今後どう展開していくのかをイメージしながら、作業を進めてください。こんなとこで失敗したら、結局、半年の積み上げや努力は評価されない。プロジェクトは最後までやり遂げて初めて評価される。自己評価で満足しないよう、最後まで気を引き締めて。
今の作業を進めるのであれば、次の作業を意識して、更に、最終的なアウトプットまでイメージすること。そこは手を使うのではなく、頭を使う作業。頭を使う作業はパソコンではなく、鉛筆とノート、手帳とボールペンの方が、作業がはかどる。頭の中の整理ができてから、パソコンと向かい合い、作業を始める。迂遠なようだが、急がば回れで、そちらの方が効率的に回せる。良いアウトプットは想像力から生まれる。そこらへんを意識して、仕事を進めて。手を使う作業は相当スキルが高まってるから、今後は一段階上げて、頭を使うスキルを上げていく。それがお前自身の成長にもつながるし、チーム全体のレベルアップにもつながる。
私を指導してくれた指導教官は、昔ながらの徒弟制度(言葉ではなく、体験や経験から学べ)的教育法だったので、正直言って、千本ノックが精神的にも、肉体的にも、辛い時期がありました。
だけど、今から振り返ってみると、あの辛さこそが、「思考よりも作業」という安易な道に逸れつつあった自分自身を、「最後まで考え抜いて行動する」という自分自身への変えていくためのイニシエーション(通過儀礼)であったように思えます。
人間は「習慣の生き物」なので、常に頭を使う習慣をどのように身に付けるのか。
千本ノックがお薦めです(笑)