民間企業と行政組織との違いを強調する人は少なくありませんが、私から見たら、「課題を見付けて、その解決に向けたプロジェクトをマネジメントする」という意味では、利害関係者の多さや難易度の高さについても、民間企業と行政組織との間に、それほどの差異はないと感じています。
差異があるとすれば、時間軸と評価基準の2点にあるかと考えます。
具体的に言えば、民間企業の場合は、短期的な視点による利益の増減が重要な指標となりがちですが、行政組織の場合は、中長期的な住民満足度が大事な要素となります。
このような違いから、民間企業から見れば、行政組織は「曖昧な判断基準で、悠長に構えた仕事をしている」存在に映るだろうし、行政組織からすれば、民間企業は「自社中心の私益追求ばかりで、地域全体の利益を度外視している」態度に見えることもあります。
私は、行政組織の内部にいる人間でありながら、今すぐにでも海外ビジネスを始めたいと思っている人間なので、民間企業の方々の不平・不満は十分に理解します。
前例踏襲主義で融通が利かないだけでなく、文書主義で何かあれば書類を提出させるにもかかわらず、決定までに時間を要する愚図な組織というのが、行政組織に対する一般的な理解だと思います。
だけど、逆の立場から見れば、公金を預かっている以上は、要望や要請があったからといって、すぐに公金を支出するというわけにはいかず、公金支出に当たっての公平性・妥当性・適法性など、きちんと説明責任を果たせる案件なのか否かを多角的に検討・精査する必要があります。
何か地域で問題が発生すれば、すぐ自治体や議員などの公的機関に対して陳情や要望活動をする動きをしばしば拝見しますが、同様の地域課題は各地で生じており、当該地域だけの特別な問題ではないケースも多々あります。
特に、善意の活動を展開されている個人・団体の中には、自らが正しい活動を行っているという強い気持ちもあり、「これだけ意見や要望を伝えているのに、理解してくれない行政組織こそが悪い」といった口調で、行政批判を繰り返す人も、時には存在します。
ただ、現実としては、単に陳情・要望活動を繰り返していても、公的機関における課題解決のための人員や予算に制約がある中では、なかなか問題解決のための手が差し伸べられないことだってあります。
このような政策形成の過程について、私は「陳情型」政策形成と名付けていますが、このような形で政策が形成される場合は、民間企業の短所と行政組織の短所とが目立つ形になるので、正直言って、あまり効果の期待できない政策が多くなると思います。
民間企業と行政組織との長所を活かした政策形成を図るのであれば、「Advocacy(政策提言)型」政策形成をお薦めします。
陳情型との最大の相違点は、個々のニーズをそのまま公的機関にぶつけるのではなく、個々のニーズを集めた上で、きちんと分析を行い、最大公約数的な共通課題(パブリック・イシュー)に仕立て上げること。
特定の地域や団体の課題ではなく、広く社会に共通する課題であり、それを解決すれば、地域全体の課題解決につながるという道筋(ロジック)を組み立てることができれば、公平性や公益性にこだわる公的機関の理解を得やすくなると思います。
民間企業にとって求められることは、独り善がりではない、広く地域や社会の利益に根ざした事業や活動であることを論理的に説明すること。
そして、行政組織に求められることは、民間企業が有する様々な経験・知識・ノウハウを活かして、地域の課題解決につながるか否かを、(上から目線ではなく)対等の立場で、議論し、検討すること。
これができれば、両者の長所を活かした、より有効か政策が展開できるのではないかと考えた次第です。