5月4日付けの日本経済新聞の経済教室面に、湯布院玉の湯の桑野社長による「美しい日本の田舎であるために」という記事が掲載されていました。

 

インバウンド消費に対する期待値が高いがゆえに、「美しい日本の田舎」を目指してきた湯布院のような地方の温泉地が翻弄され、変質しかねないという危機感がそこに書かれています。

 

 アジアからの過熱気味の来客は一過性だろう。「いいね」を多く集めた観光地にやがては移る。そうなった時、立ち返るべき本来の姿を見失っていたら怖い。

 

目先の需要(最大利益)ではなく、持続可能な観光地づくり(長期的な最適利益)のために、求められるコンセプトを次のように説いています。

 ラグビーワールドカップを来年に控え、欧米からの旅客増が見込まれる今、”開かれた田舎”の初心に戻らないと。旅先は「こうありたい日常」を求める場だ。旅人と語り合い、力を借り、土地の魅力を磨く作業が地方創生に不可欠だと感じている。

 

私も、全く同感です。

 

3年前に、イタリアのアグリツーリズモ(農業観光)に興味を持ち、その視察のため、パエストゥムのモッツァレラチーズ工場を訪れました。

 

その時の農場の風景がこちら。

 

 

 

 

 

 

TVなどでもよく拝見する、イタリアらしい田園風景です。

 

ただ、単なる田舎と違うのは、敷地内で高度に管理された有機農法を実践しているとともに、水牛(バッファロー)のミルクを活用してモッツァレラチーズを販売しているだけでなく、ジェラートやヨーグルトをイート・インスペースで食べることができること。

 

要は、「観る、食べる、買う」という観光消費の活動が、ひとつの農場内で完結できるような仕組みが出来上がっているわけです。

 

 

 

ちなみに、すっかりハマってしまった商品が、こちらのピスタチオとノッチョーラのペースト。

 

パンに付けて食べるのが大好きで、現地の大手チョコレートメーカーのVendiも、類似商品はあるのですが、やはりこちらVanuloのペーストの方が、コクがあって美味しいので、引き続き、定期購買しています。

 

 

このように、アグリツーリズモ(農業観光)によって、地域経済を活性化させる動きは、イタリアの地方の各地で見られています。

 

では、「なぜ、このような動きが起こっているのか」という疑問が湧いていきます。

 

その答えを探るべく読んだのが宗田好史『なぜイタリアの村は美しく元気なのか:市民のスロー志向に応えた農村の選択』という書物。

 

これによると、アグリツーリズモが始まったのは40年前で、増えたのは20年前。

 

この間に起こった、大きな4つの外部環境の変化があります。

 

  1. 農業観光の普及を目指したアグリツーリスト協会の誕生
  2. ローマ市民による反マクドナルドデモとスローフード運動
  3. スローライフ志向に応えた地方のスローシティ運動
  4. オルチャ渓谷の住民による世界遺産の登録

 

これまで成功する産地と失敗する産地とを研究してきた身として、観光振興に成功できる地域なのか否かという分かれ目は、結局のところ、「外部環境の変化に合わせて、地域戦略の変化や地域構造の変革を実現できるか」という1点にあるのではないかと考えます

 

上記の外部環境の変化に対して、イタリア農村側のリアクションは次のようなもの。

 

  • 地域資源を豊かにした環境保全のための農地展開政策(作付け転換、作付け制限)
  • 都会人をうまく受け入れるための受入体制整備
  • 昔ながらに暮らす人と挑戦する人が共生する社会

 

これらの地元農村側の努力も突き詰めていけば、変革を持続させる意志を持ち続けることができるかという点に集約できます。

 村が美しく元気に変わるためには多大な努力が要った。それも、村々の個別の努力だけでなく、コムーネや県、州政府、そしてEUが対話を重ね、次々と政策を練り続ける共同作業があった。そして、その根底には、急速に変化する世界と向き合い、革新を続ける村人の勇気が必要だったと思う。

 

この本を読み終えて、私が安心したのは、イタリアで起こった現象は、日本国内や鹿児島県内で見受けられるようになっているし、地域の側のリアクションも、大規模とは言えないながらも、地域リーダーが育ち、面白い(←失礼な物言いかもしれませんが)動きが活発化しつつあります。

 

あとは、下手に行政が絡んで、それらの自律的な動きを阻害したり、ミス・リードしたりしないよう、地域と行政の両者が十分に対話を重ねて、美しく元気な田舎を創るための政策を練り上げていくことが重要だと考えています。