先月末のイタリア視察で、散々食い散らかしてきたナポリピザの無形遺産登録について、会員制情報サイトであるForesight(フォーサイト)に「ナポリピザ」「和食」は「無形文化遺産」ではないと知っていますかという、「えええええ・・・」と目を疑うような記事が掲載されていたので、思わず読んでしまいました。

 

 

 言わんとすることは、料理そのものが登録されたわけではなく、専門家がまとめた無形文化遺産の定義は、(1)口承文学(2)芸能(3)祭礼行事と慣習(4)自然に関する知識(5)伝統工芸技術の5分野に登録対象を限定しているため、ナポリピザも、和食も、技術や慣習などが認められたための登録ということのようです。

 

 イタリア政府によると、ナポリピザは16世紀ごろ誕生した。現在、ナポリでは約3000人の職人がはたらき、伝統を受け継いでいる。卓越した技術で(1)こねる(2)のばす(3)トッピングを盛りつける(4)薪窯で焼く――という4つの動作によって生み出されて初めて正統なナポリピザと認められる。

 登録に際してイタリア政府は、この4つの動作を先代から受け継ぎ、“正しいナポリピザ”を生み出す職人の技術が伝統工芸や社会習慣などに該当すると主張し、認められた。

 そう、ナポリピザそのものが遺産になった訳ではなく、ピザをつくる職人技が登録されたのだ。

 実は、和食(2013年登録)やフランス料理(2010年登録)も同様で、純粋に料理そのものが遺産になっているのではない。和食は「和食;日本人の伝統的な食文化 正月を例として」が正式名称だ。狭義の解釈ではおせち料理や屠蘇といった正月料理ということになる。日本政府がユネスコに出した申請書でも、登録資産の内容として「新年の神を迎えるため、餅つきをしたり、地域で採れる新鮮な食材を用いて美しく盛りつけられたおせちと呼ばれる特別料理や雑煮、屠蘇を準備したりする」との説明がある。

 

 これは知っているようで知らない話で、現在、日本政府が推し進める農林水産物(食品)輸出においても、和食の無形文化遺産登録を和食ブームの流れに位置づけているのですが、これだと、極めて限定的な日本産食品・食材しか輸出できなくなるわけで、無形文化遺産登録を強調することは、かなり乱暴というか強引なような気がします。

 

 この懸念は、当該記事の筆者も感じているようで、記事の中でも改めて問題点を指摘しています。

 

 悩ましい変遷をたどったものの、現在では「和食=無形文化遺産」という認識が一般的だ。これは農林水産省や飲食店関係者がPR効果を優先し、説明を簡略化したか、恣意的に登録の経緯を説明しなかったためと見られる。松浦氏は、「もっと正確に経緯を説明すべきだ」と主張しているが、日本政府がその後、より正確な説明をしようと本腰を入れた形跡は見られない。

 拡大解釈を認めた影響で、無形文化遺産のカテゴリーは近年さらに拡大傾向にある。2016年の例としては、インドのヨガやドイツの協同組合などが登録された。日本政府関係者の1人は、「年々、これを無形文化遺産にして良いのだろうかと思う案件が増えていく」とため息をついた。

 

 無形文化遺産も、世界文化遺産と同様に、粗製濫造というか、認知度に乏しい、あるいは、重要性が低いと思しき資産の登録が続いていて、希少価値が下がっていく傾向にあるようです。

 

 遺産登録が、輸出や観光のための手段(ツール)に成り下がるようであれば、やがてはその価値の暴落が起こり、当初の遺産を保全・保護しようという理念が見失われるような気がします。