著書の久繁哲之介氏が、Wikipediaで「日本におけるスローシティ」の提唱者と紹介されているので、著書を読んでみました。

しかし、スローシティを掲げながらも、実はこの方は「スローシティ」の本質をよく理解せず、最近、世間に増加してきた「地方再生請負人」を自称する、単なるコンサル事業者ではないかと思えたので、やや批判的に紹介します。

日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり/学陽書房

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久繁氏は、欧米の成功事例などを「直輸入」してあてはめるレディメイド型のまちづくりに対し、地域のライフスタイルを熟知する「地域市民」を主体とした、オーダーメイド型の地域活性化を提言しています。


「まちづくりは地域市民のライフスタイルを実現する手段」と言い切り、まちづくりに地域住民を主体に据えるという方向性に異論はありません。

しかし、地域住民が利便性・効率性・経済性を重視した結果、現在のような歪な街へと変貌してしまったという事実を度外視するわけにはいきません。

まちづくりの難しさは、利便性・効率性・経済性が地域住民の豊かさや幸福を約束できなくなったにもかかわらず、それに代わる新たな価値をまだ構築しきれてない部分にあると考えます。

なので、久繁氏が指摘するような新たなライフスタイルを求める地域市民 vs. 旧来の価値観を維持したままの土建工学者、行政あるいは商店街関係者などといった善悪二元論で割り切れる問題ではないと考えます。

もちろん、この構図で悪玉にされている土建工学者、行政あるいは商店街関係者に反省すべき点がないとは言いませんが、悪玉として批判・糾弾するよりも、過去の都市計画の限界や課題は何なのか、それを克服して、地域市民のライフスタイルとまちづくりとを如何に適合させ、「住みやすい」「快適な」まちづくりを行っていくのか、ビジョンを共有・協働していくべきと考えます。

また、久繁氏は、安易な成功事例の導入を批判していますが、富山市と青森市のコンパクトシティモデル比較では、前者を失敗、後者を成功した事例として紹介しています。

けれども、実際には、青森市のコンパクトシティモデルの象徴である再開発ビル「アウガ」は現時点で、明らかな失敗事例となっています(http://toyokeizai.net/articles/-/68035)。

「官製成功事例を安易に信用するな!」と言いながら、「コンパクトシティ先進地として、『まちづくり成功事例集』によく紹介される」とわざわざ断った上で、アウガを「渋谷・原宿系のテナントを誘致できて、年間利用者が500万人を突破した」ことをもって、成功事例としているのが、利便性・効率性・経済性といった従来の価値観から脱却できてないことの証左のように思えます。

ライフスタイルにおける家庭や職場以外の第3の場所(サードプレイス)、コミュニティの重要性を指摘するなど、汲むべき論点を整理していることは評価できるのですが、如何せんまちづくりのビジョンや価値観に関する部分でのブレを感じるので、読了後も、すっきり感がありませんでした。