ホスト側でセッションをやっていて、一番残念な参加者は、「ノープランでやってくる人」です。
やりたい曲を聞いても、カラオケの曲を選ぶかのように「何にしようかな〜」とか言いながら、スタンダード・バイブルをパラパラめくりながら決めている人には、まあセッションにくるだけエライですけど、気持ちを込めてアドバイスしなくてもいいんじゃないかなと思ってしまいます(笑)。

そういう人は、「いい汗をかきにきただけ」と判断し、その人の気が済めばいいのですから、ホスト側としてはちゃっちゃと演奏してしまえばいいのですが、本当の意味で残念な人は「一張羅を着てくる人」ですね。

どの曲をどんな風にやるかイメージし、そして具体的に「書きソロ」的に決めて、しっかり練習して来られるわけです。

それなのに、なぜ残念に思うのか。
いくつかの理由があります。

セッションは「発表会」ではないし、「スピーチコンテスト」でもない
どうしてもクラシックの発表会や英語のスピーチコンテストみたいなイメージで捉えてしまってる人がいますよね。
そして本人にとってベストのワンストーリーを設定し、それを一生懸命練習してくるわけです。その様を「一張羅を着てくる」と表現しているわけです。
でも、それはうまくいかないことが多いし、うまくいったとしてもジャズ的な実力の向上にあまり寄与しないです。

なぜうまくいかないかと言えば、セッションでは容易に想定外のことが起こる。カルテットで演奏するつもりだったのに、トリオでやる羽目になったり、大小のアクシデントがいつでも起こり、そうするとワンストーリーでは対処できなくなる。

またワンストーリーであるがゆえに、間違えられないというプレッシャーが大きくなり、間違えてしまったら2度と復活できないというリスクがあります。

さらになぜ実力の向上に繋がらないかと言えば、精一杯に着飾ったワンストーリーを辿ることに専念せざるを得ず、余裕がないので周りの音を聞いて反応することができるようにならないからです。

難しい言い方かもしれませんが、「ワンストーリーは再現音楽的であり、即興演奏にはそもそも馴染まない」と言えるでしょう。

ですので、僕のオススメする準備としては、2段階的にしたらいいと思うんですよね。

まず日常会話的に演奏できるようにする
何の気負いもなく、朝起きて「おはよう」というようなレベルで演奏できるようにするわけです。どうやったらそうできるのか、その方法論については、自分で勉強するか人に習うかしなければなりません。

と言っても話が具体的でないとわかりにくいですから、例えばってことで「枯葉」という曲を題材にしてみましょう。

例えば枯葉を2コーラス、アドリブをとるとします。
この2コーラスを頭から終いまで構成を決めてしまって、このフレーズの次はこのフレーズといった具合に書きソロ的に準備して来る人のことを「一張羅を着てくる」と言っているわけです。
そうではなく、この曲は例えばGマイナーペンタトニックのみでアドリブすることができることを利用してみましょう。
たった5音ですが、これを使って、迷子にならずに演奏できるように、先ず努力します。この時のコツは、「かっこいい演奏をしようと思わない」ことです。それよりも全く気負いなく演奏できるように習熟することが大事です。
しかるのちにコード進行に適合した、しかも出来るだけ簡単なフレーズを1つか2つ用意して、ペンタトニックによるソロの合間に組み入れることができるように頑張ってみるのです。

そうすれば同じコード進行が出てくるたびに(枯葉なんかもう同じコード進行が、これでもかってくらい何度も出てきます)フレーズを入れるチャレンジができ、もし失敗したとしてもペンタトニックに戻ればいいわけです。

僕の教室では、ペンタトニックによるアプローチを「日常会話」、フレーズを「慣用句・ことわざ・決め台詞」と位置づけ、日常会話に決め台詞をアクセントとして入れることができるようになることを目標にするようにという方針で教えています。

とまあ、これは一例ですが、要は最初から高いハードルを設定してアップアップするよりは、焦ったり緊張したりせずに「出来たッ!」と思える成功体験を積み重ねることがとても大事だと思います。
そして1曲を演奏することを「作品を披露する」的に肩肘張って考えるのではなく、同じステージに立ったメンバーと「リラックスしてコミュニケーションを楽しむ」という風に捉えると、意外にラクになり、何より楽しいと思います。