別れ話をふっかけるのは、いつも100%私だった。
つきあって2年とたたないが、その間に30~40回は別れを口にした気がする。
彼くんの話では、50回は言ってますよ!!! とのこと……
なぜか――?
答えは単純で、やっぱり、将来的に不安になるからだと思う。
(※来月、婚姻届を提出しに行く予定です)
不安ひとつめ。
私は金銭的な不安から、毎月のように別れたがった。
このご時世だ。だれだって不安に思うことだろうけど。
ちなみに……私と彼くんの世帯収入は700~800万円くらい。
(いやわかる、ぜんぜんそこそこ大丈夫だろがオメェなのは……)
ただ問題は――私の年収だ。
私は、二足のわらじを履いている。
企業の総務。
小説家。
総務(事務員)の収入は安定していて、総収入の7割近い年度もある。
ところが小説家はというと、非常に不安定だ。
私は推理&SF小説が強い某出版社で新人賞をいただきプロ作家になった。そんな生活も6年目に入ったが、まず、毎年出版できるとは限らない。
ストーリーがおもしろいのは当たり前。
かつ、ぜったいに売れそうだという企画書しか通してくれない。くわえて2019年のコロナうんぬんで書店が一斉閉鎖されたこともあり、私は小説の収入がない年度というのも経験している。
くわえて(ラノベはどうかわからないけど)、昭和からつづくジャンルの小説はとにかく売れない。というか、在庫をださないため、初版冊数を限りなく低く設定しているのが現状だ。
(この会社様としか契約したことがない。よそはちがうかもです)
私はインフルエンサーでもなければ、バリバリSNSへ発信できるタイプでもないし、重版の経験などあるはずもない。
そんな風前の灯火小説家である。
彼くんの収入も同世代男性の平均値くらいだし、この先、金銭面で果てしなく彼の足を引っ張ってしまうのではという考えが根深いのであった……。
まだ完全に克服はできてないと思う。
不安ふたつめ。
ここだけのはなし。
彼くんの絶望は……とても私を不安にさせた。
発達障害のためだろうか。
彼くんは一度なにかを思い込むと、しばらくその考えから帰ってこれない。
それがいい予感……たとえば「俺の彼女がかわいい!」とか「この人とだったら幸せになれる!」「結婚したい!」ならよい。ずっとにこにこしているし、幸せオーラ全開だ。
ところが悪い予感――バッドトリップしてしまうと、もうだめ。
そのとき彼の頭は、悲しみと絶望でいっぱいになる。
特に弟が自死してからというもの、「生きていたって、この先の人生良いことなんてひとつもない」とか「弟は楽になれる道を選んだんです」とか言うようになった。
……言われる側としては、たまったものじゃなかった。
弟が生きていてくれたときは、彼、こんなにいじけた性格じゃなかった。
彼くん、変わってしまった。
私は、「私がずっと彼のそばにいてあげなくちゃ」とすぐに思えるほど、善なる人ではなかったようだ。
むしろ「縁を切るなら早いうちに……」とか思っていた。
うう……。
だってさ……。
死をほのめかす相手と結婚したくなる人、そうそういないでしょう……?
永遠の愛を誓った彼くんが――自分自身で、死んじゃったら?
私、壊れちゃうと思うし。
彼くんだってすこし壊れちゃってるし。
でも、そうやって自分の逃げ腰を肯定しようとするほど、自分の醜さ、弱さ、ズルさが浮き彫りになるばかりで……辛かった。
私はいつも、逃げることばかり考えている。
私はいつも、お金のことばかり考えている。
こんなに傷ついている彼くんを前にして、なお私は、自分が幸せになれるかを一番に考えていたよね。
……はぁ、きったねぇ女!!!!
……とまあ。
そんな一年だった。
彼が落ち着いてくるにつれ、私もまた、前よりだいぶ落ち着いてきている。
逃げることも、お金のことも。
とりあえず、コツコツ自分たちの力でやっていこうと……この彼くんとならやっていけそうだと、今は思ってる。
本当にごめんね、彼くん。
そのお詫びにはならないけれど。
当時の自分が、本当に醜くて、嫌で、情けなかったことを。
ここに書き残しておこうと思う。
来年のいまごろ。
結婚して一年がたったころにでも。
その日の私が、この日記を読み返すことを願って。