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 2007年1月、ユニバーシアードフィギュアスケート選手権での優勝選手を伝えるニュースで、私は彼女の名前を初めて知りました。高橋大輔選手と「男女シングルでアベック優勝」と報じられた、鈴木明子選手。すでにトリノ五輪代表にもなり、人気のあった高橋選手とは対照的に、当時のテレビで放送される大会では、まず見かけない名前でした。その時、彼女がその後2度も五輪の代表選手となるなど、予想した人はほとんどいなかったのではないでしょうか。(安積咲)

○ 「こんなステップを見せる女子は初めて」

その頃、彼女の選手としての情報は、インターネット上にもあまりなく、ようやく動画サイトで見つけた大会の動画も、観戦者が遠い観客席から撮影した、小さなものでした。でも私は、その彼女のプログラムに目を奪われました。

 当時のフリースケーティングは「タイタニック」のあの有名な映画音楽に乗せて繰り広げられる、鮮やかなステップシークエンス。「こんなステップを見せる女子選手、初めて見た……!」そんな風に感動したのを覚えています。男子フィギュアのアレクセイ?ヤグディン選手のステップが好きだった私ですが、女子でここまで惹き込まれるステップを見せた女子選手は、初めてでした。

 その頃の鈴木選手は、仙台の東北福祉大学に在籍していました。荒川静香選手に憧れ、その荒川選手が師事した長久保裕コーチの下で練習するために、コーチが当時拠点としていた仙台に移り住み、今回男子の金メダリストとなった羽生結弦選手の練習拠点でもあった「アイスリンク仙台」で練習を重ねていたそうです(長久保コーチが愛知へ移動し、鈴木選手が大学を卒業したのを機に、鈴木選手は今は愛知へ拠点を戻しています)。

 仙台で練習している選手という事で、同じ東北住まいの私は、そこでも親近感を覚えました。

 彼女の情報を調べてみると、摂食障害によって体調を崩し、一時競技を離れていた事が分かりました。競技に復帰したのも2004-2005シーズンからで、フィギュアスケートの選手としては、出遅れた再スタートでした。しかし、そのユニバーシアード大会を皮切りに次々と好成績を重ねて行った彼女は、2010年のバンクーバー五輪の代表選手に選ばれました。そこまで大躍進は、私にとってまさに夢物語を見ているようでした。

 メディアが伝える鈴木選手の話題に、必ずと言っていいほど取り上げられて来たのは、この摂食障害からの復活秘話ですから、その詳細なエピソードについては、私が今更書くまでもないでしょう。鈴木選手自身も隠していませんし、「闘病中の方々の力になること」を自分のスケートをする理由の一つとしても挙げています。

 でも、私はそんなエピソードの前に鈴木選手の演技に一目惚れをしていたので、それでは物足りなかったのでしょう。フィギュア選手として技術も優れている事や、プログラムそのものへの魅力も、もっともっと伝えてほしい、と願ってきました。

 私は元々演劇が好きだったせいもあり、ドラマチックな印象のプログラムを滑る選手に心惹かれる傾向があります。そして鈴木選手のスケートは、その身のこなしの先に映像が浮かぶように、私には見えるのです。まさに、氷の上が舞台になるかのように。

 役者の演技で重要なのは、緩急の使い方ではないかと私は思っています。動きであっても、表情であっても、声であっても。フィギュアスケーターに声の表現はありませんが、鈴木選手の演技には常に緩急があると思っています。スケートでの緩急は、上半身の動きだけで見せられるものではありません。スピード感のあるスケーティングや、エッジの使い分け、それらがあって初めて見せられる、動作の緩急。そんな技術があってこそ、彼女の情感溢れる表現が、氷の上で活きるのだと思っています。

 そして、2007-2008シーズンのショートプログラム「ファイヤーダンス」を、ハーグの大会で滑った鈴木選手が、フィニッシュポーズの後に、上げられた両腕を丁寧にひらめかせるようにゆったりと下したのを見た時に、また感銘を受けました。

 普通ならばフィニッシュポーズの後の両腕は、どちらかと言えばほっとしたように下ろされるか、良演技であればガッツポーズを見せるなど、演技の世界から抜け出した動きになる事がほとんどです。でも鈴木選手は、そんな腕の下ろし方にまで気を抜かず、自分の築いた世界を表現し切っている。美しさというものを隅々まで考えている選手だと、感動しました。

 私が鈴木選手に興味を持ち始めた当時は、まだ「上半身の使い方やステップは素晴らしいけれど、ジャンプが弱いかな?」という印象を持っていました。

 しかし、彼女は再スタートを切った20代から、そのジャンプスキルを確実に成長させて来ました。アクセルを除く5種のトリプルジャンプを跳び、それらをバランスよくプログラムに取り入れる事が出来る選手です。時折ルッツとフリップにエラーマークがついてしまう事もありますが、ある海外解説で「accurate(正確)」と称されたほど、精度の高いジャンプスキルを持っています。

 何より、彼女は20代半ばを過ぎてから、連続3回転ジャンプを跳べるようになっています。女子選手は、10代前半~中盤の若い頃の方がジャンプは軽く跳べる例が多く、年齢が上がると、昔はクリーンにこなしていたジャンプが困難になってしまうという選手もいます。そんな中で、その年齢で連続3回転ジャンプをマスターしてしまったという技術面の成長に、感嘆するばかりでした。

 スケートはジャンプだけで構成される訳ではなく、スピンやステップのレベルを確実に取る事も重要です。柔軟性がそこまで高くはない鈴木選手ですが、様々な工夫で美しいポジションを取り、毎回丁寧にレベルを獲得しています。定評のある高い表現力に加え、高いスケート技術のアスリートで、裏を返せば技術が高いからこそ、表現力がより豊かになるとも言えるのです。

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