チーターにねらわれたインパラの本能は、瞬時に、「闘う」か「逃げる」か、どちらかの反応を選びます。
もし、どちらもできないとき、本能は「凍りつき(硬直)」反応を選びます。
「凍りつき」とは、その名の通り、身体が凍りついたように動かなくなり、麻酔にかけられたように痛みも感じなくなることです。
生きるか死ぬかというとき、とっさに「逃げる」「闘う」「凍りつき」という本能的な反応がおこるのは、あらゆる鳥類や哺乳類に共通しています。
夜道で車のライトに照らされ、その場でかたまってしまったネコや、窓ガラスにぶつかって死んだように動かなくなった小鳥を見たことはないでしょうか。
これは「凍りつき」の例です。
「凍りつき」は、一時的なものですので、しばらくすると元に戻ります。
逃げていてチーターに追いつかれたインパラが、急に動きを止めて自ら倒れてしまったとします。
これは「逃げる」という作戦が失敗したので、「凍りつき」作戦に変更したのです。
そうすれば、動かないものは襲わないという習性を持つチーターから逃げ出せるかもしれません。
また、もし、助からないとしても、痛みや恐怖を感じなくてすみます。
「凍りつき」に入っているとき、インパラの身体は動きません。
ちょうどブレーキが踏まれたような状態です。
けれども、その同じ体内で、逃げたり闘ったりするために生み出された大量のエネルギーがフル回転しています。
ちょうどアクセルが踏まれたような状態です。
「凍りつき」に入ったインパラの体内では、ブレーキとアクセルが同時にめいっぱい踏まれたような大混乱が起こっているのです。
問題は、生き延びた後も、使われなかったエネルギーが体内に残ってしまうことです。
身体の中で大混乱が続いてしまうからです。
では、一度「凍りつき」に入った後、運よく助かったインパラは、どうすればよいのでしょう。
実は、肉食であれ草食であれ、すべての動物は「凍りつき」からめざめたとき、しばらく身体を痙攣(けいれん)のようにふるわせることが知られています。
そうすることで、使われないまま残ってしまったエネルギーを放出できるからです。
身体を「緊急事態モード」から「日常生活モード」へとリセットしているのです。
(つづく)