野生動物と人間の違いについてお話しする前に、危険を感じたときの動物の体内で起こっていることについてお伝えしましょう。
それまでのんびり草を食べていたインパラが、風のにおいに、草かげの音に、気になる気配を感じとりました。
インパラは、すぐに食べるのをやめます。
首をのばし、耳を立て、危険が迫っているのかどうか、探ります。
いつでも逃げ出せるように全身の筋肉もスタンバイさせます。
思いがけないほど近くに、自分をねらうチーターの姿がありました!
危険は現実のものとなりました!
このときインパラの体内では、ものすごい量のエネルギーが作り出されます。
そのエネルギーを使って、無事に逃げられるように。
逃げ切れなかったときには、わずかなチャンスにかけて闘えるように。
これらはすべて、本能的に一瞬でおこる反応です。
このような反応は、人間にも起こります。
たとえ何をしていても、もし、何だかわからない大きな音がしたら、私たちは、その方向を見て、何が起こっているのか確かめずにはいられません。
「何でもなかった」「大丈夫だ」とわかるまでは、神経はとぎすまされ、目は見開かれ、筋肉はいつでも動けるようにと緊張しています。
「本当に危険な状況だ!」とわかると、私たちの体内でも大量のエネルギーが作り出されます。
このエネルギーがあるからこそ、「火事場の馬鹿力」が出せるのです。
車の下敷きになったわが子を助けるために、車を持ちあげた母親というのは、この例です。
日頃は理性的に生活している私たち人間ですが、いざ緊急事態となると、動物と同じ本能のはたらきに一瞬でスイッチが入るのです。
(つづく)