「母親が強姦されて生まれた種違いの弟」という設定と、読み易い文体は悪くなかった。

が、掘り下げが浅い上に書き方が冗長であった。
物語の骨格に対し、作者の知識の垂れ流しで水増しされた「贅肉」の部位が多かった。

この物語の登場人物らは、現在進行中の筋書きとは別に、どうでもいいような昔の思い出語りを幾度となく繰り返す。
また会話の中では「文化人臭い記号(バタイユ、サド、太宰、芥川、ガンジーetc...)の引用」を、
ウンザリするくらいの高頻度で繰り返す。
この「思い出語り」と「知識の垂れ流し」の二本立てが酷く、物語の速度を著しく下げていたように感じた。

それでいて御大層な知識の山が作品のテーマを深めてくれたようにも思えない。
有名人の格言がたくさん引用されてはいるけれど、どうにもこうにも軽い。
「自分の一寸した意見も、いちいち昔の偉い人の権威を借りないと言えないのですか?」と言った感じ。

黒澤さんの存在も、安っぽい「謎のジョーカー・キャラ」に見えてしまった。
彼はナンなのですか。過去作品からのスピンオフ出演なのですか。人物造形が薄いですよ。

知っていれば知っているだけひけらかしたくなるのが人情ではあろうが、
この作者の場合はひけらかし方がマズ過ぎるし、クドかった。
作者のグダグダした衒学に付き合うのが好き、という読者なら楽しめるかもしれない。



これより下、戯言。
私個人は訥弁で会話が苦手なほうなのだが、
この本に出てくるような人々となら、あまり苦痛を感じずに話せるのではないか、と思った。
こっちが喋らなくても一方的にマメ知識を垂れ流して場をつないでくれそうだ。

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5つ星のうち 2.0 冗長だし、浅い。, 2010/9/19