5つ星のうち 1.0 ばななの本はばななファン以外の人から読まれることが無いのだろうか。, 2009/8/3
……この短編集は私にとって「どうして自分は今、自分のいちばん苦手でつらいことを書いているのだろう?」と思わせられながら書いたものです。つらく切な いラブストーリーばかりです。(あとがきより)

と作者本人は言う。
また表題作『デッドエンドの思い出』については「今までで一番よく書けた」とまで思っているらしい。

しかし、読み手の自分にはよく分からなかった。
過去に読んだ作品群よろしく、登場人物が「乙女心の哲学」を語っているのみに見えた。
別に読んでいてつらくなるようなストーリーはない。
つらい、というのはあくまでも書き手の感想だろう。
そして書き添える必要のない余計な感想であろう。

むしろ読み手からすると、
ストーリー自体よりも、作者の今作への思い入れの強さと陶酔加減のほうが痛ましいというか滑稽。
あとがきと本の帯の煽り文句に見える作者の自己陶酔が相当強くて、滑稽。
その煽り文句を真に受けて期待して読むと、思いの外普通の話であることにあ然とさせられる。
滑稽なのに、作者自身は至って真面目なので笑うに笑えない。強いて言うとそれがつらい。

この本を読んで、今まで自分が
「自己陶酔的な文章≒耽美的なレトリックの文章」
だと思っていたのに気づき、かつその思い込みが破られた。
この本の文章は、自己陶酔的ではあるが耽美的ではない文章の好例だと思う。
そして氏の陶酔加減と氏の持ち味である軽量かつ薄味のレトリックの相性が悪く思え、
少々興醒めであった。

あと会話の文体が際立って不自然。
小説内で現実と同じ会話体を用いる義務はないと思うが、
ここまでニセモノくさい会話体もどうかと思う。

加えて「ワタシ、ナンテカワイソウナノ?」と、
自分の被害者性に酔い痴れ、嬉しげに自分のか弱さについて語る女性像が印象的だった。
フェミニストに媚びを売りたい時はこういう物語を書くといいのか、と思わされた。


総じて今作は、笑ってはいけないギャグ本だと言える。
ネタとしては面白いが、真面目に読めば並の短編集である。
ばななの本はばななファン以外の人から読まれることが無いのだろうか。