Kenです
かれこれ25年行っている、とんかつ屋がある。
年に2~3回しか行かないけど、ずっと行き続けている。
僕は、飲食業を営んでいたから、もっぱら接客にはうるさい
モンスターゲストだ(笑)
そんな僕がこよなく愛すこの店は、夫婦二人でやっている小さな店だ。
僕は、飯を食うときでも、飲みに行っても、必要以上に話しかけられるのが
大嫌いで、(一人で行った時)世間話なんかしたくない人だ。
そんなことを知ってか知らずか、ここの夫婦は僕にほとんど話しかけない。
今日、久しぶりにその店に行った。
暖簾をくぐり、ガラッと扉をあけるとカウンターの奥で
呆然というような感じで親父が立っていた。
親父に「どうした?大丈夫?」って言いそうになるくらい
親父は立ちすくんでた。
カウンターには、前の客の食べたものが、そのまま置いてあった。
親父は、「いらっしゃい」とも言わない。
おばちゃんもいない。
ん?なんだこの感じは?と思ったが、いつも通り、座った。
親父は、明らかにやせ細り、僕の知ってる親父の顔ではなかった。
ゆっくりゆっくり、お茶を入れ、おしぼりを出し、また、ゆっくり歩いて
僕にそれを差し出した。
いつものように、「ロースかつ定食」と言うと、親父がそこで初めて
声を出した。
「ロースないねん。ヒレであかん?」ここのロースかつは絶品なんだけど
ヒレはいまいち。まあ、僕があまり好きじゃないだけかもしれないけれど。
「あっ、いいよ。じゃあヒレで」
親父は無言で背を向けた。。。
何かが違う。何かがおかしい。いつも、軽いお愛想をしてくれるのは
おばちゃんだけど、親父が僕を忘れるはずもない。
でも、なにか、初めてのような様子だった。
店には、僕と親父二人きり。。。
親父は、さっきの客の片付けを始めた。
カウンター前から厨房に向かって、またゆっくりゆっくり
皿を丁寧に置き始めた。
少し「イラッ!」とした。
今は、先に僕のヒレカツ定食の準備かかるべきでしょ?
と思った。
普通なら、そこから僕のモンスターはスイッチが入る。
しかし、そこは、あまりの親父の変わりぶりと、長年の付き合いが
あるから、さほど気にもとめなかった。
しかし、明らかに親父はおかしい。。。
これちゃんとしたものが出てくるのかな?
親父かなりやばいなあ・・・
そんなことを考えながら、無言で新聞に目を走らせた。
厨房の手元は見えないが、いつもと音が違う。
乱雑な音が、店に響く。
僕は、親父をちらちら見ながら新聞とスマホを交互に見ていた。
いつもより、出てくるまでが遅い。
体調を崩してるんだろうなあ。。。そう確信していた。
お盆の上に、まずごはんが盛られた。いつものようにキラキラ光る
おいしそうな米だ。本当にここの米は旨い。
まずは、僕の不安はひとつ減った。
親父。とんかつ揚げる時間長くないか?
ロースしか、食わないけど、ヘレだからといってそんなに時間は
変わらないだろ???
赤だしが別の鍋で出来上がり、お椀に入れられた。
この赤出しも僕の人生で一番旨い赤だしだ。
20分かかって、親父は「ヘレカツ定食」を作った。
ようやく僕の前に持ってくるのだが、取りに行こうかと思ったくらい
足元がおぼつかない。
僕の前に、それを置いた。
まだ、親父は「どうぞ。」とも「おまたせ」とも言わず、無言で置いた。
そして、その「ヘレカツ定食」を見て僕は、愕然とした。
あの、繊細なキャベツの千切りはなく。やはり明らかに揚げすぎのカツ。
でも、僕は25年の歳月を、食べようと思った。。。
一番初めに、そのキャベツを食べた。
まずい。
無常なときの流れに、少し涙がこぼれそうになった。
食べながら、親父は僕を覚えてないのか?
ここで、「親父さん元気?」でもないし、「おばちゃんは?」て
いう空気でもない。
親父をちらちら見ながら、そんなちら見の僕を親父はちら見してた。
話しかけてこれ以上、僕も嫌な思いにはなりたくないし、
それを無言で食べ続けた。
TVの高校野球の音はけたたましく、僕の背後から襲ってきていた。
いつ話しかけようか。もしかするとこれが最後になるかもしれない。
親父と話しておかないと、25年の感謝を今何かしら伝えないと。。。
そんな事を思いながら食べ終わった。。。
ロースカツは850円。 ヘレカツは1000円。
ここで、1000円札を渡して「ご馳走様」って言って
親父が無言だったら、そこで、終わる。。。
「ごちそうさん」と親父に言って、1000円札を渡すと親父は
「850円。ロースがないのはうちのせいやから」と言って
150円のおつりを準備した。
「最近、暇やから豚屋がロース持ってきよれへんねん。」
といつもの感じで、変コツの暴言。
「そう。でも旨かったで!」「おっちゃんちょっと痩せたか?」
「もう夏バテで、飯も食われへんし、あかんわ。」
と言い、少し目をそらした。
親父。夏バテじゃないやろ?病院いってるんか?と思った。
「長いこと寄せてもうてるねんから、がんばってや!」
「また、来ます!」
「ありがとう。」たたみかけるように、感謝を言葉にした。
親父が初めて、いつものように「おおきに」と言った。
しばらく会わないかも知らない人とは、特に僕は別れ際を大切にしている。
それは、相手に好印象を与えるためではなく。
僕の中で、完結できるようにしている。
それは、人生、相手も自分もいつが終わりかわからない。
そんな、恐怖にさらされて完結する。
「会うは別れの始まり・・・」と聞いたことがある。
親父。。。。
もう少し、あと少し、俺の世界で1番のとんかつを揚げてくれ。。。
かれこれ25年行っている、とんかつ屋がある。
年に2~3回しか行かないけど、ずっと行き続けている。
僕は、飲食業を営んでいたから、もっぱら接客にはうるさい
モンスターゲストだ(笑)
そんな僕がこよなく愛すこの店は、夫婦二人でやっている小さな店だ。
僕は、飯を食うときでも、飲みに行っても、必要以上に話しかけられるのが
大嫌いで、(一人で行った時)世間話なんかしたくない人だ。
そんなことを知ってか知らずか、ここの夫婦は僕にほとんど話しかけない。
今日、久しぶりにその店に行った。
暖簾をくぐり、ガラッと扉をあけるとカウンターの奥で
呆然というような感じで親父が立っていた。
親父に「どうした?大丈夫?」って言いそうになるくらい
親父は立ちすくんでた。
カウンターには、前の客の食べたものが、そのまま置いてあった。
親父は、「いらっしゃい」とも言わない。
おばちゃんもいない。
ん?なんだこの感じは?と思ったが、いつも通り、座った。
親父は、明らかにやせ細り、僕の知ってる親父の顔ではなかった。
ゆっくりゆっくり、お茶を入れ、おしぼりを出し、また、ゆっくり歩いて
僕にそれを差し出した。
いつものように、「ロースかつ定食」と言うと、親父がそこで初めて
声を出した。
「ロースないねん。ヒレであかん?」ここのロースかつは絶品なんだけど
ヒレはいまいち。まあ、僕があまり好きじゃないだけかもしれないけれど。
「あっ、いいよ。じゃあヒレで」
親父は無言で背を向けた。。。
何かが違う。何かがおかしい。いつも、軽いお愛想をしてくれるのは
おばちゃんだけど、親父が僕を忘れるはずもない。
でも、なにか、初めてのような様子だった。
店には、僕と親父二人きり。。。
親父は、さっきの客の片付けを始めた。
カウンター前から厨房に向かって、またゆっくりゆっくり
皿を丁寧に置き始めた。
少し「イラッ!」とした。
今は、先に僕のヒレカツ定食の準備かかるべきでしょ?
と思った。
普通なら、そこから僕のモンスターはスイッチが入る。
しかし、そこは、あまりの親父の変わりぶりと、長年の付き合いが
あるから、さほど気にもとめなかった。
しかし、明らかに親父はおかしい。。。
これちゃんとしたものが出てくるのかな?
親父かなりやばいなあ・・・
そんなことを考えながら、無言で新聞に目を走らせた。
厨房の手元は見えないが、いつもと音が違う。
乱雑な音が、店に響く。
僕は、親父をちらちら見ながら新聞とスマホを交互に見ていた。
いつもより、出てくるまでが遅い。
体調を崩してるんだろうなあ。。。そう確信していた。
お盆の上に、まずごはんが盛られた。いつものようにキラキラ光る
おいしそうな米だ。本当にここの米は旨い。
まずは、僕の不安はひとつ減った。
親父。とんかつ揚げる時間長くないか?
ロースしか、食わないけど、ヘレだからといってそんなに時間は
変わらないだろ???
赤だしが別の鍋で出来上がり、お椀に入れられた。
この赤出しも僕の人生で一番旨い赤だしだ。
20分かかって、親父は「ヘレカツ定食」を作った。
ようやく僕の前に持ってくるのだが、取りに行こうかと思ったくらい
足元がおぼつかない。
僕の前に、それを置いた。
まだ、親父は「どうぞ。」とも「おまたせ」とも言わず、無言で置いた。
そして、その「ヘレカツ定食」を見て僕は、愕然とした。
あの、繊細なキャベツの千切りはなく。やはり明らかに揚げすぎのカツ。
でも、僕は25年の歳月を、食べようと思った。。。
一番初めに、そのキャベツを食べた。
まずい。
無常なときの流れに、少し涙がこぼれそうになった。
食べながら、親父は僕を覚えてないのか?
ここで、「親父さん元気?」でもないし、「おばちゃんは?」て
いう空気でもない。
親父をちらちら見ながら、そんなちら見の僕を親父はちら見してた。
話しかけてこれ以上、僕も嫌な思いにはなりたくないし、
それを無言で食べ続けた。
TVの高校野球の音はけたたましく、僕の背後から襲ってきていた。
いつ話しかけようか。もしかするとこれが最後になるかもしれない。
親父と話しておかないと、25年の感謝を今何かしら伝えないと。。。
そんな事を思いながら食べ終わった。。。
ロースカツは850円。 ヘレカツは1000円。
ここで、1000円札を渡して「ご馳走様」って言って
親父が無言だったら、そこで、終わる。。。
「ごちそうさん」と親父に言って、1000円札を渡すと親父は
「850円。ロースがないのはうちのせいやから」と言って
150円のおつりを準備した。
「最近、暇やから豚屋がロース持ってきよれへんねん。」
といつもの感じで、変コツの暴言。
「そう。でも旨かったで!」「おっちゃんちょっと痩せたか?」
「もう夏バテで、飯も食われへんし、あかんわ。」
と言い、少し目をそらした。
親父。夏バテじゃないやろ?病院いってるんか?と思った。
「長いこと寄せてもうてるねんから、がんばってや!」
「また、来ます!」
「ありがとう。」たたみかけるように、感謝を言葉にした。
親父が初めて、いつものように「おおきに」と言った。
しばらく会わないかも知らない人とは、特に僕は別れ際を大切にしている。
それは、相手に好印象を与えるためではなく。
僕の中で、完結できるようにしている。
それは、人生、相手も自分もいつが終わりかわからない。
そんな、恐怖にさらされて完結する。
「会うは別れの始まり・・・」と聞いたことがある。
親父。。。。
もう少し、あと少し、俺の世界で1番のとんかつを揚げてくれ。。。






