わたしの両親は寄席が好きでした。
お盆やお正月に親戚が東京にくると、きまって日比谷の「東宝名人会」にみんなでいきました。
最初は幼稚園のころ。
小学校低学年ではいっぱしの常連でした。
落語はよくわからないから退屈で、色物を楽しみにしていました。
そのなかで衝撃的だったのが粋曲の柳家三亀松。
三味線を抱えてゆらっと出てきて含み笑いの声でなにか話して、爪弾きでちょっと歌う。
都々逸ですね。
〽︎明けの鐘どんと鳴りゃ三日月形の
櫛が落ちてる四畳半
もちろん意味はわかりません。
で、思うんです。
「あのおじちゃん、なんでびしょびしょにぬれてるんだろ」
そう、わたしには、びしょびしょに濡れてるおじちゃんが舞台に出てくることが衝撃だったのです。
「水もしたたるいい男」という言葉もまだ知らず、ただ、びしょびしょびしょのおじちゃんがなんかちょっとしゃべるとお客さんがどっと笑い、ちょっと歌うとお客さんが拍手する。
「三亀松っ」と掛け声も飛びます。
なんとも不思議で、あやしい時間でした。
こどもの目にも色気は水っ気として見て取れるということでしょうか。
三亀松のあの足の運び、三味線と腕の角度、着物の袂のたわんだ艶。
いまも浮かんできます。
最初の刷り込みが三亀松ですから、色気のなんのといわれても、そうそう出るものではないと思っていました。
着るものやつけるものでなんとかなるわけでもないし。
なんたって、雨の一滴も降らない寄席の舞台でびしょびしょに濡れて見えるほどの、それはやはりオーラですよね。
結局、洗練ていうことかな、と、それはこどもの頃からわかっていた気がします。
磨きに磨いて透明になったとき、水の膜のようなオーラがその人を包むのではないでしょうか。
本人のルックスとは直接関係がないというくらいの、洗練された透明感なのです。
芸人には限りません。
わたしたち表現に携わる者にとって、びしょびしょは一つの到達点を示していると思います。
そしてプライベートにあっても、わざわざ、「男の」色気、「女の」色気、と区別する必要もなく、どちらもびしょびしょがきっと最高峰なのでしょう。
恋人と待ち合わせたら、まるで噴水を横切ってきたかのように現れたいなあ。
「羽生さくるの文章教室」個人授業を開催しています。
4回でプログラムを構成しました。
各回120分の対面スクーリングです。
場所は都内のカフェなど、オンライン受講も可能です。
第1回 ライティングの基本とワーク
自己紹介文の準備
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800字エッセイの準備
第3回 800字エッセイの添削・講評
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第4回 手紙の講評
ライティングセッション
後日、ライティングセッションのフィードバックをお送りします。
受講料は1回の授業につき¥7,700円(税込)になります。
2020年11月より「羽生さくる文章教室カスタム」を開講しました。
ブログを始めて続けたい、エッセイをサイトで発表したい、インタビューの技法を覚えたい、など、ご希望に応じてオリジナルの授業内容を組み立てます。
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