「駄洒落をいったら1回10円」
小学校2年生くらいのとき、母からいいわたされました。
実際に徴収されていたと思います。
そのころのわたしは、同音異義語が好きで好きでたまりませんでした。
音が同じなのに意味が違うのは面白すぎる。
漢字をまだあまり知らなかったせいもあるでしょう。
耳に聞こえるのは同じ音なのに、意味は違って、だいたいはその違いをわざわざ聞き返すこともなく会話が続いていく。
なにか合図でもあるのかな、と思っていました。
その違いをひっかけて駄洒落をいうのは楽しくて、思いついたらいわずにはいられない。
あまりにもひんぱんにいいすぎて、冒頭の罰金を課せられたわけです。
当時は演芸番組を真剣に見ていました。
落語も漫才も言葉があふれていて飽きないし、大喜利も大好き。
綺麗に答える人と、駄洒落しかいわない人がいるのも面白かった。
中学では落語研究会に入って、文化祭では一席うかがった上に大喜利にも出ました。
アドリブを飛ばして司会者を笑わせてしまったのはいい思い出です。
亭号は「不思議亭はてな」。
いまなら「不思議亭ありす」にするところですが、そのときはまだアリスは知らなかったな。
その後も洒落と駄洒落におおわれた人生を続けていくわけですが、もとはといえば母です。
人に罰金を課しておきながら、母自身もまともに話すことがまれ、という人でした。
博才があり、麻雀や花札、ちんちろりんといってどんぶり鉢のなかにサイコロを振るギャンブルまで家でしていたのです。
近くに住んでいる親友が芸者さんの娘さんで、また賭け事が強い。
二人で毎日遊んでいました。
放課後わたしがランドセルを背負ったまま親友の家にいくと、二人が花札を引きながら「おかえりー」といいます。
わたしはお手伝いさんからおやつを出してもらってカラーテレビで『ジェングル大帝』を見るのでした。
賭け事の最中に母や親友が口にする洒落や地口もすっかり吸収してしまいました。
「参った魚は目でわかる」
「さんざん苦労して振り込む」
「そこが素人の赤坂見附」
とんだ英才教育でしたね。
それでも二人とも「粋筋」ではあっても「不良」ではなかったので、わたしもグレることはありませんでした。
とくに母の親友からは「粋筋」の美意識を教えてもらったと思います。
その雰囲気をいまの人でたとえるなら松たか子の感じです。
美人だけれどボーイッシュで頭の回転が早くユーモアがあるが余計なことはいわない。
いまでもそんな女の人はかっこいいなと思います。
洒落を極めていた母ですが、年とともに駄洒落にすごくウケるようになっていきました。
テレビのCMの駄洒落に「そんなに面白い?」と聞きたくなるほど笑っていたのです。
いわゆるツボ、というのでしょうか。
ついには、引越しセンターの電話番号「888の8888」を繰り返すCMが最高だというまでに。
(あれは六角精児さんでしたね)
わたしも当時の母の年頃になり駄洒落に回帰している気がします。
こどもたちに「そんなにウケる?」と聞かれているのですから。
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