わたしの父の骨董趣味は旧制中学に通っていた頃からだったそうです。
ランプが好きで買いあつめ、ホヤを磨くのが楽しみだったのだとか。
家は穀物商で一人息子だったから、お小遣いも潤沢。
ぜんぶランプにつぎこんだといっていました。
大学卒業後、応集して中国へ。
帰ってくると、ランプは蔵ごとすべて焼けてしまっていました。
その悔しさ悲しさ。
忘れられないまま60歳を過ぎて、父は再びランプを集めはじめます。
ランプ以前の灯火器から(なかには石の鉢のようなものもありました)イギリスやドイツ、フランスのランプ、フェアリーランプと呼ばれるベッドサイドに置く小さなろうそくランプまで。
それまでも骨董市で日本の雑器を買ってきたり、イギリスの骨董家具を買ったり、小さなマンションの部屋は骨董だらけでしたが、ランプの蒐集を始めてからはさらに大変なことになっていました。
母は寝る場所もない、とぼやき続けたものです。
わたし自身は、父が集めるものではカップとアクセサリーが好きでした。
とくにカップはマイセンのアンティークが格別だと思いました。
きょう、たまたまその一つを手に取ることになったのです。
カップではなくて、ソーサーを使いたくて。
マイセンのソーサーにはカップを置くへこみがありません。
そこにキャンディ包みにされたチョコレートを入れてみました。
白い地にマイセンのロゴが大きく手書きされて「um 1720」とあります。
カップにはマイセンのマークの変遷が年代とともに描かれているのです。
紫色の包み紙が綺麗に見えるなあ、と思っているうちに、父の思い出がこみ上げてきました。
父が好きだったもの、父の好きなテイスト、センス、美を感じる心、欲しいと思う気持ち...
一つとしてわたしと無関係なものはないことに気づいたのです。
父とは葛藤がありました。
わたし自身が親になってから、それが爆発してひどい喧嘩を何度もしたことがあります。
晩年、病床にある父に向かって、お金は償いではない、謝るべき人に謝りなさい、といい捨てたことも。
葬儀にも涙は流れませんでした。
それがきょう、マイセンのソーサーを見て、しばらく泣いてしまったのです。
父はこれが好きだった、このカップでコーヒーを淹れてあげると喜んでくれた。
マンデリンの深煎りをハンドドリップで。
その香りも立ち込めてきました。
次はコーヒーを淹れて飲もう。
マイセンのカップで父と。
羽生さくるの文章教室」個人授業を開催しています。
4回でプログラムを構成しました。
各回120分の対面スクーリングです。
場所は都内のカフェなど、オンライン受講も可能です。
第1回 ライティングの基本とワーク
自己紹介文の準備
第2回 自己紹介文の添削・講評
800字エッセイの準備
第3回 800字エッセイの添削・講評
手紙の準備
第4回 手紙の講評
ライティングセッション
後日、ライティングセッションのフィードバックをお送りします。
受講料は1回の授業につき¥7,700円(税込)になります。
また1回ずつの単発の講座もお受けいたします。
受講料は同じく¥7,700円(税込)です。
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