母はよく手紙を書いていた。

四畳半のアパートの卓袱台に、黄色い表紙の便箋を置き、万年筆のキャップを取る。

万年筆の軸は淡くて少しグレイがかったブルーだった。

 

 

便箋の表紙を裏側に回し、座りなおして、万年筆を構える。

わたしはそのペン先をじっと見つめていた。

書き出す場所を探すのに、母はペン先を、くるっ、くるっと小さく回す。

それが見たいのだった。

 

 

二、三回回して、ペン先を下ろし、書きはじめる。

宛先は、たぶん、祖父や叔母たちだったろう。

18歳で弟に電車賃を20円借りて家出した母。

わたしが生まれたときにはもう弟は亡くなっていた。

祖母もすでに亡く、だから母が手紙を書くのは祖父と叔母たちだった。

 

 

万年筆の縦長の文字がきれいだった。

母は器用で字も上手だった。

ブルーのインクが便箋の上で最初濡れていて、すぐに乾いていく。

濃淡が美しいなとこども心に思ったものだ。

 

 

万年筆が欲しい欲しい、とさんざんねだったが、まだまだね、といわれた。

中学に上がるときには買ってあげる、と。

 

 

いつかペリカンの万年筆も持つようになったが、いまも母の万年筆の軸のブルーがなつかしい。

ペン先は銀色だった。

女性の指先を思わせるほっそりしたたたずまい。

 

 

継母を嫌って家出して、手紙を書いていたころはわたしの父とも内縁関係で苦労していた母。

まだ30そこそこだったのだ。

くるっ、くるっ、とペン先を回しながら、なにを考えていたのだろう。

いまようやくその気持ちに寄り添うことができそうだ。

 

 

 

 

 

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4回でプログラムを構成しました。

各回120分の対面スクーリングです。

場所は都内のカフェなど、オンライン受講も可能です。

第1回 ライティングの基本とワーク

    自己紹介文の準備

第2回 自己紹介文の添削・講評

    800字エッセイの準備

第3回 800字エッセイの添削・講評

    手紙の準備

第4回 手紙の講評

    ライティングセッション

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受講料は1回の授業につき¥7,700円(税込)になります。

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