アンリアレイジ(ANREALAGE)2014年春夏コレクション
アンリアレイジ(ANREALAGE)2014年春夏コレクションのテーマはサイズ。ダイヤルを使い、着る人が体に合わせてサイズやフィット感を調整することができるデザインを提案。色や形は気に入ってもサイズが違えば買わないという問題を解決することに挑戦した。
今回のコレクションを象徴したのは身長も体型も違う3人のモデルが登場したシーンだ。オーバーサイズの服が縮み、丈が短くなり、体にフィットしていく。今回のデザインは襟の下などに付けられたダイヤルを使い、服の裏に張り巡らせたワイヤーと糸の中間のような繊維を動かすことで、ドレープやギャザーを調整してくというもの。ショーでは動きを強調するために、モーターを使い、モデルがスイッチを押すことでフィット感や丈などを調整していたという。その後に登場したグラフィカルなデザインもステージ上で形を変えていった。
服を動かし、シルエットを変えるデザインは、フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)の2007年春夏コレクションでも登場したアイデア。だが、フセイン・チャラヤンが1895年から2007年までの約1世紀の中で、歴史の動きに影響を受けた10年間から20年間のシルエットや丈の変化を、服を変化させることで表現したのに対して、アンリアレイジのデザインは自分のサイズとは違うものは買わないという常識に対応したものだ。フセイン・チャラヤンのドレスはコンピューターのプログラミングによる遠隔操作で動かしていたために、販売できなかったが、今回の服は実際に販売され、洗濯もできるという。
前半の大小のボーダーやストライプ、チェックなどのグラフィックは、1年前ダニエル・ビュランからインスピレーションを得たルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)へのオマージュのように、東京でも多くのデザイナーが発表しているが、アンリアレイジでは大きさの違う同柄のモデルを並んで歩かせることで、同じもののサイズを変えると違うものになることを強調した。さらに、同じ柄を使うことで、例えばコートのサイズを小さくし、Tシャツのサイズを大きくするなど、インナーとアウターを逆転したものを重ねていることをわかりやすく表現している。
同ブランドがコラボレーションしている世界初の液体レンズテクノロジーを使った、自分自身で度数を調節することができる眼鏡「アドレンズp.o.v.」なども思い出させるデザイン。「アドレンズp.o.v.」は左右の調整ダイヤルを回し、30~40秒程度で度数を設定できるというが、今回のデザインも短時間での変更が可能だ。
ここ数シーズン、アイデアそのものよりも服と着る人の関係を問い、それを解決するデザインを提案しているアンリアレイジ。フューチャーカーならぬフューチャードレスに挑む森永邦彦だが、今回のデザインは未来を描いた映画に登場するスニーカーのよう。すでにあるアイデアや概念を使いながら、これまで世界でも無かったものを創り出す方法は日本的。「美意識だけでは心を動かせない」という三宅一生が作ってきた「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)、エイポック(A―POC)、132 5. ISSEY MIYAKEなどのデザインとも共通する部分を持っている(ただし、定着させ、生活を変えていくためには、デザインやアイデアを継続し、発展させていくということも必要だが)。
また、ダイヤルを回し、度数を設定できる眼鏡「アドレンズp.o.v.」は東日本大震災などの緊急時に提供されたが、サイズに制限されない服という考え方は災害時など様々な用途に応用することもできそうだ。
なお、今シーズンのコレクションはメルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京(Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO )に招待されたブロガーたちからも高く評価されたようだ。スージー・ロウ(Susie Lau)は「服へのアプローチやものづくりの観点などから見ても、コムデギャルソン(COMME DES GARÇONS)やヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)が作ってきた日本ファッションの伝統をもっとも引き継いでいるデザイナーだと思う」。トミー・トン(Tommy Ton)は「たくさんのショーを見て疲れていたけど、アンリアレイジのコレクションがスタートしたとたんに疲れていたことを忘れてしまった」と話している。