去年はケガで参加できず2年ぶりの湯布院である。出張パックで前日博多泊だったが、往復の飛行機とホテル1泊で17,700円の激安ぶりで驚くやら呆れるやら。さておいて今年の湯布院はなかなか充実したいい映画祭だった。これをリポートですが、話はいきなり最終日から始めます。

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湯布院映画祭の最終日、2次会で飲んでいたバーに荒井晴彦さんがやってきて、「おまえは『パートナーズ』どうだったんだ?」と聞いてきてくれた。パーティ会場で『パートナー』のことを話したかったけれど、周りに人が多くて話ができなかったので嬉しかった。「良かったですよ、ただ色んな話を詰め込みすぎてて、もう少し絞った方が良かったかも」て僕が言うと、「バカな観客が勘違いするだろう」と。僕は「踊る大捜査線に関するインタビューで、荒井さんは観客ももっと勉強すべきって言っておられたけど、観客なんて勉強しないですよ。色んな映画あって色んな観客が居て、そんな映画の大きな循環のなかで、『パートナーズ』があればいいんですよ」と言った。
そう実際シンポで良かったと言ってる人たちも、荒井・井上コンビが用意した物語を読み取れないまま、盲導犬を扱った物語としてのみで感動だけをしている人が多かった。僕はそれで良いんだと思う、東京テアトル系での公開と聞いていた(東宝系シネコンでの上映の話もあったそうだが、製作者である劇団東俳の都合もあってそうならないようだと言うのが井上さんからの話だった)。しかし今HPを見るとシネコンのMOVIXを含めて24館、シネコンであってもスマッシュ・ヒットにはなりえる題材と内容だと思う。できるだけ多くの人たちがこの映画を観て、たとえ1%でも荒井・井上コンビが用意した物語に感応する観客が居れば成功だと思う。
盲導犬と視覚障害者の関係が描かれることの多いこの手の題材だが、この映画では視覚障害者と盲導犬訓練士とパピーウォーカーの3者が描かれている。これにミュージシャン物語と妻娘と別居している父親の話を織り交ぜての荒井的全開映画で、僕らとしては思わずほくそ笑んでしまう。ヒロインが冒頭歌うのはRCサクセションの『雨上がりの夜空』、そしてエンドは早川義夫さんの『君のために』、脚本家指定のこの2曲もさすが荒井選曲でここでもほくそ笑むことになる(RCは忌野追悼を込めて、『君のために』は最初はJ.テイラー&C.キングの『君の友だち』を使いたかったとの荒井発言も楽しい)。さらにはフリーター格差社会と、井上氏がこだわったと言う捨て犬殺処分問題が織り込まれ、パピーウォーカーの家庭には幼い娘役の子役が居て、これにチェ・ゲバラとF.キャパの名前まで振りかけられていて、観客はこれらの多彩な要素のどこかしこで感応することができる。
でもあえて僕は2時間の映画としてはエピソードが多すぎて、じっくり観たいところや、もっと掘り下げたところでの人のぶつかり合いを見せて欲しいところに、不完全燃焼を感じたと言いたい。パピーウォーカーの話を捨てて、視覚障害者と盲導犬訓練士の話にまとめて、そこにミュージシャンとしての葛藤とフリーターからの脱出としての盲導犬訓練士を選択する葛藤を掘り下げて見せて欲しかったし、そして父と別れて暮らす娘の話はヒロインの話としてまとめたらどうだったんだろう。捨て犬問題も看過すべきではないが、盲導犬の話とは関連性が弱く欲張って入れる必要はないと思う(井上さんは3者が出会うシチュエーション作りとしてうまく処理できたとシンポで言っていたが、パピーウォーカーの話を外せば、元より不要になる)。盛り沢山なエピソードは、物語を織りなす多彩な背景として映画に厚みを与えていたが、主人公とヒロインにとっての物語の軸としては機能していないと思った。二人は行き逢っただけであり、フリーターから訓練士への転身も、ミュージシャンとしての転身も交錯すべき二人の物語の核とはならず、背景に留まったのが物足りなかった。
ところで東京から来ていたMさんに感想を聞くと、このような映画は人間の都合で犬を訓練することには違和感があり、興味を持てない。犬だって盲導犬なんかにならずに自由に生きたいはずだと言っておられた。僕の反論には納得しなかったようだけど、もう一度言えば、犬にとって人間に飼われずに自由に生きることは幸福ではない。狼は群れをなして生き、その群れのリーダーに従って生きることが本能であり、その群れを狼同士ではなく、人間の家族という群れに同化することで暮らすことが犬の本性である。犬は極めて社会的な動物であり、家族という群れのなかでリーダーである視覚障害者に従って生きることは充実した生活なのである。その意味でもパピーウォーカーの家族の幼い娘の話も不自然ではあった。よく漫画や映画で子供と飼い犬の友情が描かれるが、それは有り得ないフィクションだと思っている。犬は家族という群れの中で序列を決めていく。犬にとって彼女のような幼い子供は群れの中では自分より低く従属する存在と感じててしまいがちで、彼女の命令に従うように犬を意識付けるのは彼女には至難の技である。僕は子供のときと現在各約15年犬を飼ってみてそのことは強く感じる。映画で描かれたように彼女が犬と同じゲージの中で眠ることで相互の信頼関係が深まるというのは物語の中だけにフィクションだと思っている。定石的なフィクションなので映画の嘘として見れるが、パピーウォーカーと盲導犬が再会し交流する設定と含めて、リアリティを削ぐ割には不要なものではなかっただろうかと思う。
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この世で一番キレイなもの/早川義夫

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