深夜のファミレスにて
友人と待ち合わせるまでの時間潰しに本でも読もうと、深夜営業をやっているファミレスに入った。

国道沿いの深夜のファミレスには一人で来る客なんているはずもなく、先客たちは友人や連れ合いと賑やかに騒いでいる。一人一人の声を聞き取れぬほどに騒がしく、返って騒々しいとは感じなかった。

注文を済ませ、読みかけの小説に夢中になってすぐだったと思う。横のテーブルからの声につい聞き入ってしまった。前後の脈絡もはっきり判らず、その言葉にどのような意味がこめられていたのかは知る由もないが、なぜかその言葉は耳の奥底にのっぺりと張り付いたようだった。その訳も釈然としないし、自分がそのように感じたことがあるわけでもない。また、どんな状況や環境を体験すればそのような心境に至るのか、後ほど思いを巡らせたが浅はかで安易な邪推の域を越えなかった。しかしながら、その言葉を溜息混じりに話す彼には、心中察するに余りある悲壮感が漂っていた。


“この世の中で、友達の嫁ほど恐ろしいものはないよ。”


それは断崖絶壁の深淵が見えないような闇を覗いてしまった男が友人に語るといった種類の言葉だった。