ズロクトの超加速と、マッハ・クイーンがそのズロクトに向けて放ったパンチは、ほぼ同時だった。方向と位置関係とタイミングのせいで、ズロクトは彼女の一撃に自ら、突っ込んだ形となった。

 警官の包囲網の上を、ズロクトは一瞬で通り過ぎた。あれだけのスピードとスピード。その威力は計り知れない。しかし彼に安息はない。その飛ばされた先には、もう1人のヒーローがいた。

 

 ハイスピード・クイーンは手に銃弾を持っていた。先ほど、警官たちが撃ち込んだ弾だ。彼女はそれをくまなく正確に、キャッチしていたのだ。マッハ・クイーンが警官たちや周辺の人間を全て、避難させたのを確認して、地面にバラまいた。彼女の思惑通り、ズロクトはその金属の絨毯に背中をつけた。痛みが、ズロクトを襲ったのだろう。ズロクトの叫びを彼女は見届けた。

 

 だが、彼女の攻撃の手は緩むことはない。痛みで意識を奪われたズロクトの反応速度を、彼女の一撃が上回るのは必然。常人ならば、まるで消えたようにしか見えない彼女の蹴りがさく裂。ハイスピード・クイーンのつま先が、ちょうどズロクトの顎をとらえた。ズロクトは道路をえぐりながら蹴り飛ばされ、それを見た彼女はすぐに先回り。二度目の着地地点で待ち構え、今度はズロクトの顔面にパンチを叩きこんだ。沈むズロクトの顔面。噴き出す黒い血。歯が砕ける音。アスファルトが砂となる音。彼女にはそれが、己のパンチ以外全てスローモーションのように見えていた。もちろん、実際はリアルタイムの進行速度。遅いはずがないが、ハイスピード・クイーンにとっては、ゆっくりとし過ぎているのだ。確かな手応えを感じた彼女は、超高速の状態から帰還した。音も視界もにおいも何もかも、朝起きて一日を過ごす時間の感覚に戻っていた。強化スーツを脱ぎたい気持ちにすらなった。

 

 しかしそれは油断と言える。ズロクトから離れようとした時、彼女のは足首を掴まれた。彼女とズロクトのスピードは互角。自由に動けなくなった方が、絶対的有利を得るのは間違いない。それは彼女自身がつい先ほど証明したことだ。

 彼女は持ち上げられ、振り回され、そして吹き飛ばされた。

 

 ビルに突っ込み瓦礫まみれの彼女は、ズロクトの追撃を覚悟したが、それはもう1人のヒーローにとって阻止された。それはもちろん、マッハ・クイーンだ。