もう片方の手術を受けた。
心配してはいたけれど、術後に会うと、ちゃんと会話もできて、胸を撫で下ろした。

しかしその翌々日に急変、バイパス以外の場所からじんわり出血しており、それが脳を圧迫していたのだ。

8年前担当して下さった先生と同じ先生に執刀いただいた。

8年も経つと、我々もやや楽観してしまっていた。大変なことがあったというのは覚えているのだけど、でもこんなに回復してくれたのだし、とあの頃の恐怖が薄らいでしまっていたのだ。

母は、今回の手術を受けるにあたって、「長生きしたいから」と言っていた。また孫ともサッカーしたいんです。と先生に伝えていた。

母は再び絶対安静の状態で今眠っている。こうしている間も少しずつまた出血して脳を圧迫しているのではないかと考え始めると不安で仕方ないのだが、だからといってどうすることもできず、ただ、スマホを握りしめて過ごす。

家族の一大事であるのに、私は意見することもできず、先生と医療従事者にお任せである。家族なのに、私は何もできず、お任せしてお祈りすることくらいしかできんのか。
あの母の連続4回にも渡る開頭手術から7年が経過しつつある。

母はその後親戚づきあいも再開させ、地方自治体が開講したWebデザイン講座を受講することで新たなスキルを身につけ、クラウドソーシングのサイトから仕事を単発でこなしている。

中古の本などを売ることも続けている。
誹謗中傷にもへこたれずに続けており、父が買い漁っていた在庫は驚くべきことにまだ尽きない。

母の症状はもやもや病である。
国にも難病指定されているものだ。

彼女が当時の会社に医者の診断書を提出する際、同僚からの印象を気にして、あえてくも膜下出血として診断書を出して欲しいと執刀医にお願いし、すごく揉めたのを覚えている。

もやもや病は子供の頃に発覚することが多く、難病指定されている割には症例や文献も多くない。

7年前、担当医からゆくゆくはもう片側の脳血管も手術した方が良いと言われていた。
でも強くはすすめなかった。あの四回に及ぶ開頭手術は恐怖だった。また同じことが起こったら?そして今度は、あの頃よりも体力は落ちている可能性がある。重い後遺症が残ってしまったら??今のような自立した生活ができなくなってしまったら?自分の意思をはっきり言葉で伝えることができなくなってしまったら?

でも母には、将来的にはもう片方も手術した方が。という医師の言葉がナイフのようにずっと心に刺さっている。最近ときどき身体に痺れのような感覚がある。やはりそろそろもう片方もした方が良いのではないか??と言う。私はそうだね。とは返せない。
あの7年前の手術は、まだ未完成であり、いつかはもう片側も手術して完成させなければならない。でも、怖い。という母の気持ちは分かる。家族も担当医も、誰も強く勧める人はいないのだけど、母は心配そうな顔をしている。

手術が未完成である限り、ある日突然脳内出血してそのまま帰らぬ人となってしまうのではないか?今度は麻痺ではなく、昏倒してしまうかもしれない。その時に後悔してももう遅いのでは?という不安な気持ちだ。

症例が少ないし、検査自体も痛みを伴うのでセカンドオピニオンにも積極的になれない。

人生には、なんとなくこうした方が良いのかもしれないけど穏やかな日常を維持するために、うやむやにしておいておいた方が良い事もあるのだ。

いや、医者からあの時こう言われたからやろうよ!何を怖がってるの!なんて言う奴がいたらそいつを殴ると思う。悩むくらいならやろうよ!とか、そういう類のことじゃないのだ。その結果は死や、重度の後遺症になる可能性もあるのだから。

あの時だって、医者は簡単な手術だと言ったのだ。なのに何度も数日の内にやり直す事になった。再手術が今すぐ必要ですが、あいにく手術室が空かないんです…という言葉で血の気がひいたあの時の恐怖が思い出されるのだ。

おだやかな、日常を精一杯生きよう。

母が手術を受けてから1年が経過した。

当初より大分活発になってきた為、家族としてはとても嬉しい。

友人とも定期的に会う約束をし、親戚と会うのもそれほど嫌がらない。


仕事は辞め、今は自由な時間を我が家にある古本の整理に使っている。

中古本をインターネット上で売るサイトがあるのだが、そこに何冊か登録して

注文が来るたびに嬉々として発送をしている。


しかしそんな中でも顔の知らない人とのやりとりで必ず発生するであろう問題が

ついに発生した。中古本を送った先から文句が来たのだ。

頼んだものと送られてきたものが違うというのだ。

ISBNコードは一緒なのだが、版が異なっていたらしい。正直私でさえ「え?! そんなことってあるの?」と驚いてしまったくらいである。母はただちにその注文者に返金し、メールでも謝ったのだがその注文者はよほど腹にすえかねたらしい。出品者の評価付けの欄に「ペテン師!サギ野郎!XXX!もう二度と利用するものか!」とまくしたてていた。この評価付けの欄は、中古本を買おうとしている人がその出品者の評価を見る際に参考にする口コミのような場所である。

たった数百円の取引でこの誹謗中傷・・・(((゜д゜;)))酷い。

赤の他人から母親に向かって投げられた言葉に私がショックを受けた。


母はこんなひどい書かれ方をされたとは自分からは一言も言っておらず、たまたま私がそれを見つけたのだ。ただ、「どうやら自分の確認ミスで出品間違いをしたらしい・・・」と言葉少なに言っていただけだった。


せっかく中古本の販売を楽しそうに始めたのに、このような心無い人から

ペテン師呼ばわりされ、出品者としての評価まで落とされてしまった。

まだこの事はちゃんと話していないが彼女が心配である。


長い人生このような厳しい扱いをされたことはきっと何度もあっただろう。

しかし今、生死を分ける大きな手術を乗り越え、どん底からやっと少しずつ自信を取り戻してきていたところなのに。

果たして今回のことを乗り越えて彼女は強くなっていけるだろうか。

それとも心に深い傷を負って社会からまた一歩暗いところへ退がってしまうのか。


「評価のコメント見たよ・・・」と言って彼女の神経を逆なでするのが良いのか分からない。

それでも黙ってはいられない。家族皆でいかに相手の行動が理不尽かを糾弾するべきだろう!

正直あのコメントを見て私も動揺している。ブログを書きながら少しずつ落ち着いてきた。明日彼女と家族で話してみよう。