恋人が怪我をしたからって、直ぐにその場に駆けつけられないのは、この業界にいるからとかそんなことは関係なくて、社会人ともなれば仕事を優先しなきゃいけないことなんてザラにあって、だから後髪をどれ程引かれたって目を瞑るしかないのだって、仕方ないこと。だけど、理解してるからって心が騒つかないといえば、それは嘘になる。「大丈夫ですか?」の7文字に「大丈夫だよ」の5文字とよくわからない不細工なキャラクターのスタンプ一つで全部を受け入れなきゃいけないなんて酷じゃないかと不満がないと言えば、それも嘘だ。終話ボタンを押したあと、寂しさがつのるだけだから電話はしてくんなと、出国前にマイルドに言われ、それを律儀に守ってはいるけれど、こんな時ぐらい彼の声で「大丈夫」の一言がほしい。車を走らせれば、無理にでも会いに行ける距離じゃない。終電間近の新幹線に飛び乗れば、どうにか会いに行ける距離じゃない。【心はいつでも一緒】なんて、あの人は言いはしないけど、心が一緒だろうがなんだろうが、触れられなければ今は意味がないわけで......近いようで遠いなんて、上手いこと言ってる暇あったら深夜便増やせ、マジで。...行けないけど、それこそ責任ある大人として、そんな事した日には、マネヒョンや事務所の人間だけじゃなくて、そんな暴挙に走らせた当人からも怒られるのは目に見えてるし、何よりそんな元気が今の俺にはない。...もう三十路手前だ。




「......歳とったなぁ...ふふ、俺もヒョンも...」




【怪我したって本当?】
7文字と5文字のやり取りの少し前、Twitterに溢れる情報の中から拾った文面を目にして、直ぐに送りつけたメッセージにYESでもNOでもなく、控え室のソファーに収まって、首筋に手を添えた自分の写真一枚送り付けてきた彼。こんな時でも角度を調整したのであろう、お得意の斜め上からショットの其れに収まる彼の表情は、出逢った頃より幾分大人びた。まぁ、それは彼に限ったことではないのだけど......俺もまぁ年齢のせいか贅肉が取れなくなったし......大人になるって...辛い。それでも、そうやって確実に歳を重ねたのに、未だ何事にも全力投球で、時々こうして俺をやきもきさせる彼は、あの頃と変わりなどなくて、愛らしい。




【もう歳なんだから、無茶しないでくださいよ。】
【ムカつく。もっと怪我人に優しくしようって気がないのか、薄情者】




今だって、もうデジタル時計が夜深い時刻を表示しているのなんて関係ないとばかりに送れば直ぐに返ってくる、悪態。声は聞かせないくせに、この画面を開いたままでいるなんて、そんなところが本当に愛らしい。
遠く離れた場所から悪態を吐く彼が、今、どれ程の痛みを感じているかなんて、わざわざ聞かないし、きっと彼だって答えない。目の前に居たって結局はわかんない其れを、文字で説明なんてされたって分かる訳がない。だけど...少し。心が一緒だとかそんな戯論じゃなくて、重ねた時間がそうさせるなら、少なからず分かる事は、あって。それはきっと、遠く離れた場所に居る彼が、俺と同じように柔らかい気持ちで、たわいない文字の羅列を眺めているであろうことと。





【帰ってきたら、嫌ってほど優しくしてあげますよ】




今送り付けた、文章に下唇を噛んでるであろうこと。




【殺す気か...】
【今、心配で殺され掛かってる俺に言う台詞じゃないですよ。】