僕が通う学校は、田舎の中学校だ。
今は中学三年生、受験生真っ只中の年である。
僕が彼女と出会ったのは小学校一年生の入学式だったが、小学校六年間は彼女に対して特別に感情を抱いたりはしなかった。
中学校に入学し、一年生ではクラスが離れ、二年生で同じクラスになったのだ。

彼女を見て驚いた。言葉では言い表せないほど美しい女に豹変していたのである。
僕はこれでも健全な思春期男子であるので、その時の動揺とか興奮といったら言うまでもない。
僕が彼女に関心をもちはじめたきっかけは、そんな下心からでしかなかった。

そして最初の席替え、僕は運が良いのか悪いのか、彼女のとなりになってしまったのである。
僕は悶々とした。頭の中は残念なことに喜びよりも怪しいピンクでいっぱいだ。
というか、彼女のようなとても美麗なひとの隣が、僕なんかで務まるのか。僕の脳内は次第に、彼女への申し訳なさでいっぱいになった。
その時である。彼女が僕に話しかけてきたのだ。

「あの、...大丈夫? 私と隣、嫌だった?」

僕の脳内はまた違った申し訳なさでいっぱいになる。

「い、いや...そんな訳じゃないんだ、僕こそ...ごめん」
 
そう答えるだけで精一杯だった。
全然嫌じゃない、むしろ嬉しい、だなんて僕に言えることではなかった。

その日は微妙な空気のまま時間が過ぎた。

次の日、僕は学校に早めに行くことにした。英語の宿題が出ていたのに、英語の教科書を持って帰るのを忘れてしまい、宿題ができなかったのだ。自分の馬鹿さ加減に呆れながら教室のドアを開けると、いつも入る時とは違う位置に太陽があって、異様なまぶしさだった。
つるつるした机や床に反射して、眩さに目が眩む。僕はなんとか自分の新しい席を見つけて、席についた。

10分くらい経った頃であろうか、廊下を上履きのかかとが擦る音が聞こえた。
誰かと思った。彼女だった。

僕はどうしたらいいのかわからず、すぐに宿題へと目線を落とした。

「宿題?」

彼女が覗き込んでくる。近いといったらもう。

「お、おう」

「私も。英語の教科書忘れちゃってさ」

何と言う偶然だ。僕はまたなんだか申し訳なくなる。
僕はなんと返事をしたらいいのかわからず、ただ黙った。

そのうち彼女も席について宿題に取り掛かり始めた。

僕の目は無意識に彼女を捉えていた。


僕は気づかなかったけれど、彼女が言うには、僕は5分くらい彼女を凝視していたらしい。
視線を感じたのか彼女が、

「...私どっか間違えてる?」

と言った。

「い、いや...」

そうすると彼女は僕の顔をしっかりと見つめた。
僕の後ろにはまっしろに輝く太陽があるのだろう、彼女の顔がとても良く見えた。
綺麗だな、と思った。
まっしろな光に照らされた真っ白な肌は雪のようで、太陽の熱に溶かされそうだった。

「...もう、私まぶしくて渡辺くんの顔ちゃんと見れないの。渡辺くん無口だし、何考えるのかわかんない。今は見えないから、もっとわかんないの。そんなに真剣な顔して、何考えてるのか、知りたい」

それでも僕は何と言ったらいいのかわからなくて、ただただ黙っていた。

「...もう、わかんないってば...ははっ」

そう言って彼女は、がさつに笑った。
がははっ、と、大きな口を開けて。
何が面白いんだか、訳が解らない。
僕はこんなに真剣に君のことを考えているのに、何が面白いのか。
でも、彼女の笑顔は太陽くらい眩しく見えた。
がさつで、大口をあけて、こんなに綺麗な容姿をもっているのに。
何を考えてたかって、そりゃあこれしかないだろう。

「...君の顔が、綺麗だなって思ってたんだ」

言葉が口をついて出た。僕はしまった、と思うと同時に人生も終わったと思った。
こんなに恥ずかしい事を言うなんて、この口はどうかしている。
違う、無意識に心の声が漏れてしまったんだ、ああそれではただの変態だ、何と言ったらいいのかもう本当にわからなくなった。
僕も彼女も暫く黙りこくった。
沈黙が痛い。本当に申し訳ない。
自分でも自分が気持ち悪すぎる。穴があったら入りたいというか、縄があったら首吊りたい、とでも言えばいいのか。

僕がそんな思考回路を張り巡らせていたら、彼女が口を開いた。

「...ありがとう。......照れるなぁ...」

そう言って頬を染めた彼女の表情を、僕は一生忘れないだろう。

眩しい。
それは太陽のせいだけではない。
太陽と同じくらい美しく輝く彼女を、
僕はその時、好きだと思ってしまった。