実際に起こったカルト教団「人民寺院」による実際に起こった集団自殺事件を題材にしたフィクション。

ある日、連絡が途絶えていた妹から奇妙な手紙を受け取ったパトリックは、過激な突撃潜入取材で知られるVICE社のサム、カメラマンのジェイクとともに、妹が暮らす共同体に潜入取材をおこなうことになる。

「エデン教区」と名付けられたその地に上陸した3人は、最初は都会から離れた平和で理想の地のように見えたが、どこか奇妙な連帯感や空気が漂っていることに気付く。

そこに、一人の少女から人目をはばかるように「助けてください」と書かれたメモを渡されたことで、3人はこれから始まる恐怖に巻き込まれていくのだった・・・というスリラー。

 

 

ミア・コバ主演の“エックス”がずっと気になっており、最近になってようやく鑑賞。期待値が高すぎたせいか、悪くはないが正直微妙だった。ただ、誰が監督をしているのか気になり、タイ・ウェストなる人物だということが判明。名前だけは聞いたことがあったため、他にどんな作品を撮っているのだろうと気になり今作にたどり着いた次第。合わせて、変態イーライ・ロスが製作に携わっていたことも大きい(笑)

結論から言うと、“エックス”より断然面白かった。

 

音楽ファンとしては、両作ともタイラー・ベイツが音楽監修で参加しているのが嬉しい!“イート・ミー、ドリンク・ミー”以降、パッとしない作品を連発していたマリリン・マンソンを返り咲かせることに成功した影の立役者!ただ、正直スコアはそれほど印象に残らなかったが・・・(笑)

 

エデン教区を牛耳る教祖「お父様」のサングラスをかけた出で立ちは不気味で、安っぽい説法なのに強引な言葉の威力で正当化する姿や、信者に対する異常なフレンドリーさは気味が悪い。この俳優の怪演も今作のカラーを決定づけている重要な要素だ!

 

 

全編POVになっており、ジェイクが回すカメラ視点のため、当然彼が走るとブレるし彼が設置すると固定される。これまで、POVってどうなの?とその手法に疑問に持っていたのだが、今作に限ってはこれが実に効果をいかんなく発揮しまくっている。カメラが映すものがそのまま直で流れているだけであるため、変に演出ができない。それがとてつもなくリアルで、この異常な空間に自身がいるような臨場感があり、閉塞感や登場人物の息遣いが伝わってきそうなほど!ほんと早くこの地から逃げ出したくなる!

 

 

ジェイクが、ヘリコプターで教区から逃げようとした際に、どこからか銃撃されジャングルを逃げ回るシーンは、途中酔いそうになるくらいブレるのだが、見えない敵にいつ殺られるのか分からない、まるで戦場にいるかのような緊迫感を生むことに成功している。

 

 

教区のイカレ具合がバレてしまい、助けを求めてきた母子をサム達が救出しようとした時を同じくして、言い逃れができなくなったお父様が、「アメリカに攻撃される」「いずれにしてもこの場所はおしまいだ。その前に死を選ぼう」といった、時代錯誤感満載の納得できかねる説法により、信者はオレンジ色の気味悪い液体で死を選ばざるを得なくなる。

 

 

何の罪もないし何も分からない赤ちゃんは、死には到底似つかわしくないあまりにも蛍光色なオレンジ色の毒を注射され、何も疑わない子供は、オレンジジュースでも飲むようにコップに注がれた毒薬を飲まされて死んでいく。百歩譲って、宗教を信じ切っている大人は自業自得かもしれないが、巻き込まれたその子供たちが可哀そうすぎる。

 

 

苦しむことなく安らかに死ねるという言葉を信じ切って毒を飲む信者だったが、実際はかなり苦しんでなかなか死ぬまでに時間を要する。そこら中で苦しみながら泡を吹いてのたうち回る者たちを見て、まだ毒を飲んでいない人たちは、怖くなり毒を飲むことができなくなる。毒を飲むのを躊躇する者は警護兵に銃で脅されて泣きながら飲むか許しを乞い、逃げようとする者は容赦なく射殺される。まるで地獄絵図・・・。

 

 

さらに追い打ちをかけるように、この場所から連れ出して欲しいとサム達に懇願していた女性が追い詰められ、あいつらに殺されるぐらいならと自分の子供の首をナイフで切り裂き自らも心中しようとするシーンは観るに耐えない。

これまでたくさんのグロ映画を観てきたが、今作はエグイシーンは一切ないのに、あまりにもリアルで惨たらしく救いようがないため、目を背けたくなる。心がえぐられるというか・・・。

 

 

実際に起こった「人民寺院」による集団自殺事件は1978年だが、今作の設定は現代である。SNSも充実していて、どこにいても誰とでも繋がれる時代。当時とはすべてが異なっている。この設定変更はかなり有効で、今の時代に生きているからこそ、「教区で携帯が使えない」・「何キロも徒歩かつヘリコプターで逃げるしかないほぼ孤島状態」という外界から閉ざされた密室空間が浮かび上がってくる。

また、今作で亡くなる信者は167名。「人民寺院」による集団自殺事件では918名が亡くなり、しかも200名以上が教区から退去を望んでいたとのこと・・・。

 

こういった実際に起こった事件を抜きにしても、映画単体としての完成度は素晴らしい。

サムとジェイクが無事脱出できるのかという緊迫感を最後まで持続させることに成功しており、スリラー映画としても完璧である。

 

評価★★★★(星5つが満点)