亡き父から牧場を受け継いだOJは、父が空から部品が落下して事故死した日に見た謎の飛行物体を忘れられずにいた。
その話を聞いた共同経営者の妹エメラルドは、それをカメラに収めテレビ局に売って儲けようとOJに提案する。時を同じくして、謎の飛行物体が近辺で出現し人々を飲み込んでいくという怪奇現象が発生する。
一攫千金を手に入れるため、彼らは命を懸けて謎の飛行物体の撮影に挑むのだが・・・というSFスリラー。
僕の敬愛するミュージシャン曽我部恵一が大絶賛していたこと、また、音楽・映画の趣味が共通している弟も同様に絶賛していたため、期待値MAXで鑑賞!
それが完全に裏目に出た・・・。決して悪くはないが、ジョーダン・ピール独特のエグさや癖、スピード感が薄れているように感じた。
ジョーダン・ピール作品が大好きだ。
“ゲット・アウト”は素晴らしかった。“アス”も“ゲット・アウト”には及ばないものの、不気味さは更に増量して目が釘付けになった。この2作品とも、それぞれ人種差別や格差社会といったアメリカが抱える問題がメタファーとなっていた。
それは解説なんか読まなくても分かるくらい明らかだ。でも映画ってそもそもそうでないといけないと思う。解説書とセットで一つの作品ではないし、映像のみで完結しないと作品としてどうなのか?・・・と。“複製された男”は完全に映像作品・監督のインタビュー・解説書の3点がパッケージされていないと絶対理解できない(笑)
今作も、そういった点では、支配=搾取する者とされる者といったものがテーマであることは分かる。でも、そこから、で!?となってから何もない。結局見世物にされ搾取される側である謎の飛行物体は、爆発して死滅するしで、特にそれ以上の意味を読み解くことができない。
今作は、逆にそういった不毛な解読を必要としないストレートなSFスリラーなのだろうか?
チンパンジーが撮影スタジオで死んだ人間をもてあそぶオープニングは不気味で秀逸だし、謎の飛行物体が出現するまでは良かった。が、以降の展開がイマイチか。あと、舞台が田舎町の牧場で西部劇チックなところもスケールが大き過ぎて、これまでの密室的な陰湿さとジョーダン・ピール特有の不気味さを薄めてしまう要因になっているような気がしてならない。
ラストも、“ゲット・アウト”の虐げられてやられまくってからの復讐劇の、待ってました!な素晴らしいカタルシスもなく、凄くあっさりしている。CGはよくできていて、謎の飛行物体完全体のペラペラモンスター感は、これまで以上に予算がかかっているんだろうなぁとは思ったが、それ以上の感情がわかない(笑)
しかし、登場人物のキャラの濃さはジョーダン・ピール史上最高に癖が強い(笑)
寡黙で冷静なOJ、口が達者でしっかり者の妹エメラルド、ちょっと頭のねじが外れているが憎めない販売員のオタク青年エンジェル、頑固でこれまた芸術のために命を投げ出すイカレおやじの映画監督、と個性の塊!(笑)
特にエンジェルはイケメンだが犯罪スレスレのヤバい奴という何とも言えない設定で、今作のコメディ要素のほとんどは彼が引き受けている。
こんな強烈なメンバーが集まったらチームワークがどうのどころではないし、ドタバタ劇が巻き起こるのは目に見えている(笑)
インチキ臭い遊園地オーナーのジュープを、“ウォーキング・デッド”でニーガンにルシファーで顔面弾き飛ばされ壮絶な死を迎えるグレン役のスティーヴン・ユァンが演じている。
そこまで見せ場はないが(笑)、子役時代に自分だけチンパンジーと目が合わなかったため襲われず生き延びたという、謎の飛行物体が人を襲う時に何に反応するかというヒントに繋がる重要な役どころではある。
これだけ批判的に書いてしまったが決して駄作というわけではなく、ジョーダン・ピール要素を求めてしまうと、辛口になってしまうだけのこと(笑)
“ゲット・アウト”と“アス”とは明らかに空気感とテンションが異なるため、2作を切り離し単体で観るとストレートにSF映画として十分に楽しめる。安っぽいところは一切なく、全てがリアル!すごいフォローしているようだけど、本当です(笑)
評価★★★(星5つが満点)