2015年
入社9年目のある日
俺の身体が限界を迎えた

原因は職場での人間関係によるストレス

自分では人付き合いは良い方だと思っている
誰とでも冗談を言い合えるし、険悪になったことなどはほとんどない

大勢いる職場の先輩後輩達とも和気藹々としていた
とてもいい関係だった

しかし、あるたった一人の後輩が嫌いだった

悪口になってしまうかもしれないが
この後輩は
・人の工具を盗む
・気に入らない人の工具を壊す、隠す
・先輩後輩問わず上から目線で話す
・初めて組んで仕事をする相手に「仕事できんの?」などと失礼な言動をする
・機嫌の悪いときは大声を上げて物を壊して周りにそれをアピールする
・外食するときなどはお店の店員さんに横柄な態度をとる
・元暴走族だと言って周りを怖がらせようとする

まだまだ挙げればキリがない。
一言で済ませれば程度の低い人間だ

そんな人間でも俺の大事な後輩
せめて人並みに修正できないかと
仕事・酒・遊びまで共にしてみた

どんなに嫌いな相手でも、何か1つぐらいはいい所があるかもしれない

だが、知れば知るほど人間の小ささに驚かされる

生理的に嫌いになるとはこういうことなんだろう

俺に対して行った後輩の行為は
「○○さんは仕事が雑なんだよ」といいながら後輩の方が雑

俺の妻が少しぽっちゃりしていると知ったら「○○さん、そんな女連れて劣等感とかないの?」と言う

「○○さん、こんな底辺みたいな仕事してて情けなくないですか?親が見たら泣きますよ」
「あ、親が底辺だから息子の○○さんもそうなんだー」と親に対してまで悪口を言う

「○○さんのミスのせいで皆迷惑してんだよ、土下座しろよ土下座!」
後輩のミスで俺がフォローをし、上司に報告しようとすると俺のせいにして大勢の前で騒ぎだす

「この材料使って溶接してくださいね」と間違った材質の溶材を俺に渡してミスを起こさせようとする

等々・・・そんなことをされ続けても
年齢的に若いから調子に乗っているだけだと自分に言い聞かせ、耐えながら俺は後輩の子守りをし続けた




ある日から通勤中の車の中でも目眩が起こり
仕事中でもふらついたり、焦点が合わなかったりするようになる

流石に病院へ行ったが行く先々で別の病院を紹介される
たらい回しにされているのかと思ったほどだ

脳神経外科でMRIを撮ったり
耳鼻科では耳石がズレていると言われたりもした
また他の耳鼻科では「起立性低血圧」と診断された
血圧を安定させるための薬を服用したが
あまり効果は感じられなかった


次第に会社に出勤する足取りが重くなっていき、動悸や目眩が悪化していく

ついには出勤できなくなり、心療内科の受診を決意する




適応障害と診断された

会社へ提出する診断書には「鬱症状」と書かれていた

2~3ヵ月の自宅療養をするよう指示され

職場の人たちへの申し訳ないなさ
仕事を教えてくれた師匠への申し訳なさ
仕事へ出掛けていく妻への申し訳なさ
仕事へ行けない自分の情けなさ
後輩から受けたストレスに負けたことの悔しさで心が押し潰され毎日泣いた



定期的に会社に精神科医のカウンセリングに行ったが
話をしていくうちに涙が止まらなくなったり
「俺なんかいなくなった方がいい」など
典型的な鬱の人の発言らしいが、当時の俺にはそんなことはわからない
ただただ自分が悪いんだと、自分を責め続けた

しばらくの間は後輩の乗る車と同じメーカーの車を見かけるだけで激しい動悸が起こり、息苦しくなった
1年経った今でも胸が苦しくなる


課長からは「こんなにまでお前に負担がかかっていたとは知らなかった。本当にすまないことをしてしまった」と謝られ

職場長からは「お前にストレスがかかっていたことはわかってたけど、お前にしか頼れなくてこんな結果になってしまった。無理させてすまんかった」と謝られた

課長も職場長も悪くない

俺が人に怒れない性格だということと、
他人に頼らず自分一人でなんとかしようとしたことが原因だ



休職し、しっかり休んで仕事に復帰したが
職場は異動することになった

新しい職場では、これまで専門でやっていた溶接の作業はなく
ほとんど初めて行う作業ばかり

心機一転、再スタートにはうってつけじゃないか

と、順調に再スタートを切れた








が、何の気なしに新しい職場の人に言われた

「○○さん、1つずつ仕事を覚えていってはいますけど・・・このままじゃマズイですよ」

俺が異動で今の職場に来たと同時に
新入社員もこの職場に配属となった
言ってみれば同期

入社したての若い社員と
入社10年目の30越えたオッサン

双方同じ技術を持っていて、どちらかを選ぶことになったら・・・
誰もが若い方を選ぶだろう

同じように仕事をして、同じようにスキルアップしていてはいけない

俺はその新入社員のこれから身に付けていく技術に+αでスキルアップしていかなきゃいけない
という意味で言われた


なるほど、そりゃそうだ。
頑張らないといけないな

気を引き絞めてより一層頑張り始めた
それが間違いだった。




気負えば気負うほど細かいミスを起こす

頑張らなきゃ

頑張らなきゃ!

焦りは増していく






そんなとき1通のメールが届く

「久しぶり~○○!元気してるか?」

ずっと海外出張へ行っていた前職場の先輩だ

俺にとって数少ない理解者で頼れる兄貴分的な人だ

本来なら「聞いてくださいよー」とか「ちょっと行き詰まっててー」とか返せるはずがろくな返事を返せない

今の俺を見られたらなんて思われるか・・・

勿論先輩は励ましてくれるなり、落ち着かせてくれたりする
それはわかっている

しかし俺自身が勝手に焦りに拍車をかける

「先輩に合わす顔が無い!」
「慌てちゃ駄目だ!」
「早く一人前に!」

とにかく悪い方向へのスパイラルに陥っていった




そして2015年5月12日 朝

朝飯が喉を通らなくなり
家を出る時間が近づくにつれて動悸が激しくなり、胃と背中に痛みを感じ
胸が押し潰されるような感覚がする


「会社に行けない」
「ごめん・・・ほんとにごめん・・・」

泣きながら妻に謝っていた

妻のお腹には6ヵ月になる赤ちゃんがいる
ますます仕事に精を出さなきゃいけないときに俺の気持ちが折れてしまった

生活するのにギリギリの収入なのにまた休職になれば、いずれ生活は・・・

「明日からまた頑張らないと!」
ついそう考えてしまう

今頑張れない奴が他のいつ頑張れるというのか。




5月13日
昨日と同じく朝飯が食べられなかった
動悸、胃と背中の痛み、息苦しさ、涙
昨日と全く同じ

結局また仕事を休んで心療内科へ



自律神経失調症

そう書かれた診断書

上司へ診断結果を電話で報告する俺は
また色々な人達への申し訳なさに心を痛めた

妻は笑って「大丈夫!なんとかなるよ」といってくれるが、内心は不安だろう

妻の両親は「気にするな!困ったときは助けたる」といってくれるが、内心は娘の旦那がこんな弱い奴で不安だろう

妻のお腹の子はどう思うだろう
弱い親父でごめん



周りの人達への申し訳なさ、情けなさ、不甲斐なさに心が痛い

どうして俺はこんなに弱くなってしまったのか


ちょっと水をこぼしてしまった
そんなちょっとした事でも自分を責めてしまう

妻は笑って許してくれるが俺は自分が許せない

このままではいつか妻の心も疲れさせてしまう

早く治さなきゃ